『モアナと伝説の海』は2010年の『塔の上のラプンツェル』から続く、3Dアニメーションルネサンスを迎えていると言っていいディズニーの中では、脚本の質が低いのが気にかかります。それはキャラクターの造形やコンセプトといったレベルまで含めた意味の脚本なんですが。
今作は『アナと雪の女王』の雪の表現と対になる形で、驚異的な海の3DCGアニメートをベースにしています。南太平洋のエメラルドグリーン交じりの海が波を打ち寄せるシーンの鮮やかさと、海が割れたり意志をもって動き出すというアニメ的なアイディアの、リアリティー追及のイリュージョンを見せるやり口はまさにディズニーならでは。
ここんところのディズニーの評価が『アナ雪』や『ズートピア』がやれジェンダーやらポリティカルコレクトネスを考えた結果や、『シュガーラッシュ』や『ベイマックス」が日米のゲームやアニメにアプローチしたオタク的なコアな面白味も混ぜ込んだ結果という、コンセプチュアルな面白さが軸になるんですが、逆にうっとおしいものともいえますよね。今作はそれから離れた純粋なアニメートそのものの強さを感じられる出来になっています。
というか、旧来のディズニープリンセス枠すら”逆にうっとおしいもの”にしてる感もありますね。「アニメーションは女の子供がメインのお客様」ということで、主人公は周囲から抑圧されたりして本当の自分が何なのかがわからないお姫様が主人公ってのをメインにするんですけども、主人公モアナは最初から自分が何者なのかの自己評価が完全に確立されているんです。なので素直にアクションのアニメートが楽しめる作品でもあります。
がしかし、近年のディズニーの中でもアニメートに特化しいることが、肝心な部分に繋がっていないと感じましたよ。強力でしなやかなシュートが蹴りこまれているのに、ゴールには入らないサッカーの試合みたいな。えー、アニメートを追及した果てに神話的なイマジネーションに突入していくカタルシスがないんですよ。すごい映像が展開されているのに、それがないから結局技術職的な部分で感動するという、悪い意味の作画オタク的な感激になるつまらなさですよ。難しいですよ。
これは昨年日本で公開された、ブラジルのインディペンデント長編の『父を探して』(去年のベストです)と、アイルランドの長編アニメの『ソング・オブ・ザ・シー』と比較すると明らかなんです。両作品とも現代のディズニーみたいな、基本リアリズムで作るのをベースにしてアニメ的な表現をとる、イリュージョン的な作り方に否定的で、意識的に手描きのアニメーションを志向しているという点で共通しています。あえてシンボリックにデザインされたこともあいまり、神話としての感動が伝わる作品です。
”まるで本物の海がそこにあるようにリアルに描く”ってすごいじゃないですか。写真みたいな絵ってみんなすごいってほめるじゃないですか。ところが、なかなか残んないんですよ。イリュージョンの感動って全人類がほぼ初動でわかる要素なんです。ところが、どんなに凄くてもすごい技術ですねというだけだとだめなんですよ。『モアナ』は先述の2作が自国の歴史や神話を元にしていたのに対し、ディズニーが久々に自国以外を舞台に神話を作るって構図もあるかもしれません。
そのことと、脚本がどうにも荒いというのは無関係ではないかな、とは思います。最初からモアナが立場的にも本人の自己評価も確立してる人物だから、ディズニーならではの抑圧されたお姫様が本当の自分を見つけていくみたいなドラマツルギーがなく、いまいちマウリがどういう人物像であるのかわからないんです。一番神話的なイメージを体現できるキャラなんですが、いまいち伝わり切らない。かなり忠実かつ丁寧にやっていったはずの失意から立ち直り、みたいなドラマがけっこう雑。ラスト間際でマウリが再び闘いに戻る理由とか荒いんですよ。「ええ?」みたいな。こういうラスト間際での失意からの立ち直り、他の作品ならかなり序盤から伏線を張ってここで立ち直らせるのか!と唸ったことは近年のディズニーでは多いんですけど、今作はダメでした。なのでどうしても技術的・アクションがすごいという、残んない評価になっちゃうんですよ。
それにしてもちょうど前回「日本の深夜アニメの劇場版オリジナルやアートと違う感動は、前世紀的なオリジナルを追うことではなくリミックス&サンプリングがあるからだ」と書いたんですけども、『ラプンツェル』以降のディズニーの3DCGアニメーションのすばらしさってまさにリミックス&サンプリングの要素が多分にあったと思いましたよ。過去の要素を現代的に解釈を直す、動物ものの『ズートピア』とか、ゲームやアニメの膨大なアーカイブからサンプリングしてる『シュガーラッシュ』『ベイマックス』とか。昔はほんと下手でしたからね。『トレジャープラネット』とか。
いったんそこからはなれたのかなあ…いやいや「マッドマックスFR」のパロディもあるし、結局リミックス&サンプリング部分が面白味につながってた感もあるなあ…自国では老舗ディズニーならではの強力なアーカイブに加えて、日本ぽいオタクネタのサンプリング力も得たことで強力になりました。また、多様性を求める時代を考えたことで強力なキャラクターデザインも得ています。それが今のディズニーの現代性をつくってたとおもいますね。
モアナと伝説の海 オリジナル・サウンドトラック <日本語版>
- アーティスト: V.A.
- 出版社/メーカー: WALT DISNEY RECORDS
- 発売日: 2017/03/01
- メディア: CD
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