【「これアニメ化しないんだ?」とは80年代や90年代の作品がアニメ化され続けるもどかしさに対する、ささやかな抵抗のシリーズです】
ニュースで不気味な殺人事件を目にしたときの冷ややかな感覚は、誰でも身に覚えがあるでしょう。
ぞっとする感覚が深く刻まれるのは、なにも続報で犯人の背景が明らかになることだけじゃありません。特に「獄中結婚した」って続報は、楔のように不気味な感覚を刻みこみます*1。
殺人を犯し、収監されているはずの彼らと結婚を選んだ人間がいる。私たちは残酷な事件を知ったとき「なんてひどい」って思うのと同時に、事件の不条理さを自分たちが生きている現実から遮断するはずです。犯人が刑務所に送り込まれ、日常から隔離されるのと同様に。
だけど結婚って選択は違いますよね。日常生活を送る誰かが、隔離された犯罪者と婚姻を結んだってニュースから、遮断したはずの不条理が隣り合わせにあることを突きつけられる。陰惨な殺人を犯した木嶋佳苗や宅間守と誰かが結婚したという報道を通し、「なぜそんなことができるんだ?」と思い、理解できないものが自分たちの現実と地続きにあるのだと気づかされる。
『夏目アラタの結婚』(小学館・ビックコミックスペリオール連載 公式サイト・第1話公開中)はまさしく犯罪者との結婚というストーリーを通して、観客を不条理と隣り合わせに引き込む漫画でしょう。
『医龍』や『幽霊塔』の乃木坂太郎さんが描く本作は、諧謔的な描写やミステリーの進行、犯罪者のヒロインの描写などエンターテインメントの味付けを欠かしておりません。
リアルな獄中結婚を描く意図はないでしょう。ですが、読者を犯罪者という不条理に向かい合わせ「絶対に耐えられない」「いや、もしかしたら理解できるかも」という境界線の上に立たせようとしていることは、確かなのです。
*1:本テキストでは「収監されている人間同士の結婚」のケースは別にしております。ちょっと歯がゆいかもしれませんがご了承ください