17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

観ると気が遠くなるアニメ『天空侵犯』 。『MUSASHI -GUN道-』に近いNetflixオリジナルとはなんなのか……

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 天空侵犯』アニメ化&2021年2月配信決定 白石晴香、青木志貴ら若手実力派が出演 /2020年10月27日 - アニメ - ニュース - クランクイン!

『天空侵犯』

NetflixオリジナルアニメとしてTwitterでプロモ広告を打つくらいだから、それなりに自信がある作品なのかな」そう思って観たものは虚無でした。

そこにあったのは絵の綺麗な『MUSASHI -GUN道-』でした。手描きと3Dが混ざることで奇妙な味わいとなった『エクスアーム』が話題になっていますが、本作の手触りはそれに匹敵するでしょう。しかし笑って観ていられるものでもなく、「Netflixオリジナルが日本アニメを救うとはなんだったのだろう」と気が遠くなってゆくのでした。

 

原作はホラー風味。アニメ化、それを無視


主人公・本城遊理は、突然学校から高層ビルへ飛ばされてしまい、そこで仮面を被った人間による殺人を目のあたりにします。人々が次々と仮面に殺されるか、あるいは仮面の能力により、自殺させられていました。

遊理は壮絶な状況から、兄の理火(りか)に連絡を取るとするのですが、彼もまた高層ビルに飛ばされていました。この状況では地上には降りられず、ビルの上層階を接続する吊り橋でのみ移動できる、と伝えられ、遊理は、理火と合流するために動き始めようとするのですが……。

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原作の画風。マガジン的ながら、どちらかと言うと殺伐としたムードを表現しようと尽力している。

原作はマンガボックスに連載されていた漫画です。デスゲーム系で荒唐無稽な設定かつ、スマホで気軽に読めるようにしているため、絵のインパクトと単純なシナリオで隙間時間にさっと読めるようにしているわけです。基本は仮面の人間とか、単行本の表紙を見るにホラーなんですよね。

隙間に読むもの+絵の勢いがあれば、荒い設定にわざわざ「そんなわけないだろ」って思わせないからいいですよね。窓に身体を挟まれた女性とあれこれする広告えろ漫画にわざわざ「ありえない」という人はいない。「ビルの間につり橋が」という無茶もそれと同じで、隙間だから放置されているんです。

しかし小さな画面で手軽に読みやすくしたずさんな世界観を、なんの考えもなしにアニメに興したとしたら……? そこにはホラーは無くなり、コントにしか見えない空間が広がっていました。

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何の批判性もなしにやったアニメ化。明らかにバカバカしく見えるビルのつり橋

椅子に深く座って、Netflixのアプリケーションを開き、モニターに映して雑な設定の世界観を観ると全然違うんですよね。説得力のない映像を前に疑問が止まらない。ねえどうやってビルに橋を架けてるの? だれが架けてたの? 大東建設? さすがに上の画像みたいな映像がずっと続くのを前に「そんなわけないだろ!」と思わず言ってしまいましたよ。

そう、原作が勢いで疑問を差しはさまないようにしているのを、アニメがここまでホラーの絵作りも演出も放棄してしまっていることで、なにもかもバカバカしく見えるんです。

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アニメ化によって増田こうすけ作品のようなリアリティレベルへ……

つり橋がこうなら後の展開も困惑します。アニメの予告だけならそれなりに見えるかもしれませんが、本編を観ると演出がところどころおかしいんですよ。えっ? 主人公極限状況にいつ適応したの? 躊躇なしに死体に火をつけてるのなんなの? 「わかった……仮面の男はピッチャー……だから鉄球をストレートで投げてこちらを殺しに来る……」これ真面目にみれるか?

原作ではホラーらしい絵で担保していたデスゲームならではの緊張感が、アニメでは昼日中の中目黒で増田こうすけ漫画のコントくらいのムードになっているんですよ。すごい絵があれば勢いでごまかせる(そこそこの面白さでも大声とやけくそさで面白くなるおいでやす小田のように)ところ、勢いがなくなった瞬間すべてが滑稽になってしまうという。

カイジ』のアニメ化って、やっぱりスタッフはそれなりに福本さんの絵や表現をどう映像に落とし込むかって、きっちり再解釈していたわけですよね。その過程を抜きに適当なアニメ化をすると、デスゲームは確実にコントにしか見えなくなる。 ホラーと笑いは背中合わせにあるといいますが、ここまでの失笑に転じたものもなかなかない。

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地上50mで行われる長編増田こうすけコントと一度感じてしまうと、もうすべての要素がそう見えてきますからね。たとえば戦闘の音楽がプロレスラー蝶野正洋選手の入場曲「Crash」に似ていて、主人公が闘うたびに蝶野選手が入場してくる脳内映像が浮かぶようになっています。

オリジナルアニメとはなんだったのだろうか……

かくして、原作の時点で凄く荒いデスゲームものが、適当なアニメ化によってすべてが失笑へと転じるようになっています。

そんな再解釈のないアニメ化を、なぜNetflixオリジナルがやっているのか? という最大の疑問に繋がります。豪華な『MUSASHI -GUN道-』の生まれ変わりを観ながら、数年前にNetflixに掛けられたアニメへの期待について思い出していました。

 “Netflixオリジナルアニメが日本のアニメを救う”か……。あの言葉や期待とはなんだったのだろうな……。80年代OVAに近いということは何度も書いてきましたし、Netflixに期待されるような残酷描写や露悪的な描写も通常の深夜アニメがやっているみたいなことも書いてきました。

しかしいま「本流から逸脱した自由」という文脈でNetflixオリジナルを観ているひとは皆無のように思えます。

本作を素直に笑うことはできないのは、これを日本のNetflixは軽く広告を打つ程度とはいえ自信を持って送り出すタイトルにしているということでした。閉塞する日本の商業アニメ界に風穴を開ける希望……開国を迫る黒船……。

その期待から数年、導き出されたのがこれか……。観たアニメは忘れましょう。そして培った技術やモードは投げ捨てて、次回にお会いしましょう。

 

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