17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

劇場版でもアートでもなく、深夜アニメでしかできないデザインは何か?を実現したアニメベスト5

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 ここの書き散らしもなんと3年になりますとのメールがはてなより届きました。第一回は正直ほんと偏見だけのひどいもんだったんですけども、まあちゃんと(10分以内だけで評価するくそ仕様はかわってないですけど)各シーズンを見ていきますと気づきは多かったですね。

  これを機にクラシックからアートアニメーション、アメリカのリミテッドアニメなども併走しつつ、深夜アニメを見てました。アカデミズムからサブカルチャー、アートからコマーシャルまで、広い範囲でアニメーションの表現がありますが、それらと比較して国内の深夜アニメだけが特化してる部分はあると思います。

 今回はその意味で、ここ3年間でもっとも優れていると思ったアニメベスト5です。先に書いとくと、エロとかバイオレンスとかバカ要素はちょびっとで「競女」とかまったくはいってないですすいません。

 

 

 

 

5・おそ松さん

 

teenssexandwarmode.hatenablog.com

 

4・ルパン三世

 

teenssexandwarmode.hatenablog.com

3・キルラキル

 

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2・オカルティックナイン

 

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1・ローリング☆ガールズ

 


以上5作です。ちょっと昭和原作、昭和イメージソースの作品が多くなっちゃいましたね。「ええ?意外にベタなの?」「マジでこれかよ…」「というか忘れてたよこれ」という感じの5選ですが次行きましょう。

 

この5つがどの意味で劇場版長編やアートアニメーションと比較して“深夜アニメでしかできないこと”で優れているのか?

 

 早い話がミックスサンプリングです。オリジナルの劇場用長編では作画枚数をふんだんに使い豪華な背景美術で構成して作品世界をリアルに、生きているかのように描く傾向があります(この手の専門用語なら、いわゆるイリュージョンってかんじで評価されるやつですね)。アートアニメーションではアカデミックな素養によるアプローチで、もっと根源的なところから作り出す意味でもっともオリジナルなアニメを作っていると言えます。それらのフィールドと比較すると、深夜アニメではすでに出来上がってる素材のリミックス、または素材のサンプリングのいずれかが優れていると言えます。

 

 ちょっとリミックスとサンプリングについて、正規の音楽用語とはやや俗流の言い方で本エントリは使ってますんで少しまとめておきますと、リミックスってのは過去に出尽くした要素やネタを、製作者が再解釈して再編集すること。特にアートとデザイン方面が前進しているために、今の基準で過去のデザインを解釈しなおしたらこうなんじゃないかっていうアプローチです。サンプリングは過去や現在のネタをそのままかっぱらって(ちょっとアレンジして)貼り付けていくことです。

 リミックスとサンプリングが優れていることで、なにが劇場版やアートより優れたことになるか?

 しかし❝他の作品の要素を引用や再解釈していく❞みたいな話をしていますし、この手のねたでありがちな問題「オリジナリティ」の話をちょっとやっときましょう。。

 「ものを作り出すときは誰しもお手本や見てきたものの影響があるから」というのはありますよね。ところが、リミックスやサンプリングというのは露骨に元ネタを持っていくことも含め、(技術的な環境とか、過去の作品のアーカイブがめっちゃそろってるとか)そういうところから発生してることも込みで、ともすれば「オリジナリティがないじゃないか」「パクリは許さない」と叩かれてもおかしくないこの手法です。

 

 劇場版オリジナル長編ははっきりと映画のフィールドで比較されることで、リミックスやサンプリングよりも作家性や演出そのもののオリジナリティを意識しがちです。アートアニメーションは様々な表現や文脈を利用しながら、映画とは別のアニメーションという表現そのものを追及してオリジナルを探っています。

 対して深夜アニメの界隈は実は過剰なほどのオリジナル信仰もないし、特定の客層に受ける要素を常に想定していることで、劇場版やアートほどの苛烈なオリジナリティの確立は要求されていない、いわばB級の立場です。ところがそんなB級の立場が、圧倒的なオリジナリティたろうとするA級を超えていってしまう、

 

 で、このベスト5は順位が上がるごとに、そんな深夜アニメにおけるリミックスとサンプリングがいかにして優れていくのかを、階層ごとに説明するかたちになっています。

 

出来上がっている題材を再解釈するリミックス、意味ある題材を切り取るサンプリング

 

5位:おそ松さん 過去や現在の❝パロディ❞として他作品を引用する

 過去の要素だとか出来上がっている他作品を使って作品を構成していくというので、大体みんなパクリとか言って炎上せずにすなおに受け取れるラインは笑いのねたにする“パロディ”と過去作品への敬意や愛を表明する“オマージュ”ですよね。「おそ松さん」はその部分で最もわかりやすい例です。同時に過去のリミックスって意味も第1話の白黒アニメ(※TV放映版)から、ビビットなカラーリングで構成していき、現代化するにあたって膨大なネタをパロディにしていくみたいな。

  

4位:ルパン三世 過去の❝再構築❞や❝再解釈❞で現代に近づけるリミックス

 これはおそ松さんともかさなるんですけど、過去のあの時代の荒い線描やアクションを今のデザインで再解釈して、なおかつ現代のデザインとしても浮くことなくまとめ上げていますね。

 これは「峰不二子と呼ばれた女」や山本沙代や「次元大介の墓標」の小池健のアプローチの果ての完全新作という形です。現代的に仕立て直すのって難しいですよ。ルパンにしても普通に70年代の再現を何とかしようとして失敗したりし続けてましたからね。 

おそ松さん」から今放映中の「鬼平」とか、もうリミックスとかどうしょうもないんじゃないかというくらいの昭和のタイトルを、見事に今新しく見せることが出来る水準の高さを以上の作品は見せてると思いましたね。

 

3位:昭和のサンプリングとオマージュ キルラキル

 そんな過去の要素のリミックスとに加えて、膨大な昭和のドラマやアニメ(さらには作画枚数を少なくしてきびきび動かして見せるアニメートまで)のサンプリングをみせるのが『キルラキル』でしたね。

  こちらは昭和のアニメやサブカルの引用に対して、はっきりとオマージュという形でまとめ上げています。「グレンラガン」でも優れていたんですが、こちらは意識してアニメートを簡素にする、リミテッドしていく要素も込みで、日本のTVアニメ史などの愛の表明として、過去の要素をかっぱらってきています。

2位:高い作画技術とカット割りのタイミングでネタにするオカルティック・ナイン

  こちらは深夜アニメ的モチーフをいくつか弄ってる(巨乳、同人、まとめサイトあれやこれや)んですけど、作画からレイアウトの基礎水準を高めた上でそうしたモチーフを取り扱う手つきがよいです。OPでは日本アニメ界でもっとも苛烈なリミックスをみせる石浜真史がハマってるのにみられるように、この作品はリミックス&サンプリングをするうえでの基礎水準みたいのがよいのです。

1位:膨大なアニメ的モチーフを、元の意味がなくなるまでのサンプリングする極限

ローリング☆ガールズ

  そしてサンプリングとリミックスの極限が本作です。深夜アニメ界隈で使われる膨大な要素が引用。ほぼ全ジャンルの要素がサンプリングされています。4人の女の子バンド。謎のヒーロー。ロボット。バイク。同人誌即売会。ミサワ。地方活性と聖地巡礼ブルーハーツBOOWY。etc.

 オタクとサブカルネタの膨大なサンプリングの果てに、笑いものにするパロディもサンプリングした元ネタへの愛を表明するオマージュという、ある種かっぱらうことのアリバイみたいのがない意味で優れています。パロディだから引用してもいいんです、愛を捧げているから引用してもいいんです、みたいなのはかっぱらう理由付け。もっと上なのはパロディの意図も愛の表明もない、技術や技巧に特化したサンプリングとリミックスなんですよ。ローリング☆ガールズはそれをやってると思います。

 

しかし改めて、現代的な❝かっぱらう❞❝つくりなおす❞手法 リミックスとサンプリングを振り返ると…

 こう過去の名作の要素を抽出して再解釈したり、面白い作品の面白い部分だけ徹底して切り取って組み合わせたりの手腕でいちばんすごかったのって、ぼくがあまり知らないだけかもしれませんけども在りし日のガイナックスなんじゃないですかね…

 

 ほら「トップをねらえ」からそもそもの「エヴァンゲリオン」とか。元ネタがわりと露骨で、その引用と再構成っぷりなんてまさにそうですもんね。「オネアミスの翼」あたりは絶対オリジナル信仰あったとおもいますけども。さいしょ”パロディ”でスタートしているかに見えて、アニメ的なガジェットを大量にサンプリングしながら意味をフラットにしていくアプローチは「フリクリ」が先んじていると思いますし。後のトリガー今石監督の「グレンラガン」の60年代から2000年代を再編集するとか凄まじいですもん。

 

 音楽の世界で、ある種、現代的な方法であるリミックスやサンプリングでものをつくるのがメジャーになっていくのは80年代くらいからなんですけども、まさに国内のアニメ業界で早い段階で過去の体験のリミックスとサンプリングでものをつくるを先行していたスタジオではないかなと思いますね。庵野秀明はオリジナルのなさに自覚的で、過去のコピーを意識的にやる、と表明するあたりがほんとうにわかりやすいといいますか。「スキゾ・エヴァンゲリオン」で竹熊健太郎氏が評したような「神をコピーして、神を殺す」ってまさしく今回エントリが言及してる深夜アニメが優れているサンプリングとリミックスの点をもの凄くカッコよく言ってることですね。

  

A級を超えるB級

 

 リミックスとサンプリングが素行の悪いパクリみたいな手法を超えて、逆に極めて現代的な意味を持つのはまさにここですよ。A級たる映画やアートが指向するあくなきオリジナルに対して、B級たる立場から思いもよらない形でそれを突き崩す流れが出てくる。そのうちに、それが新しい水準になる。みたいな。

 

 脱線すると邦画ではそういやほんと現代的なリミックスとサンプリング感覚は欠けてて、旧来の作家主義のオリジナル信仰が先行しがち(そしてシネコン大作は制作委員会のご都合的)であり、日本の実写映画よりもアニメの質の高さはそこにある、と見てます。そういう意味ではリミックス&サンプリングの現代的な感覚を持った庵野秀明が邦画「シン・ゴジラ」で過去の特撮から岡本喜八などなどの個人アーカイブを組み合わせて傑作に、というのはそういうことでもあるんじゃないでしょうか。

 

 リミックス&サンプリングの果ての「ローリングガールズ」は、ほんとに音楽で既存の50万枚のレコードの要素をサンプリングだけで作っちゃったアルバムがあるんですけども、それをちょっと思い出しますね。もうそこには元ネタへのパロディもオマージュもない。ただ純粋に要素だけを切り取られている。これだけアニメらしいガジェットやその他サブカルチャーをサンプリングしながらワンクールやりきったっていうすごい作品なんですよ。

 一方サンプリング&リミックスのアルバムがボーカルによる歌の要素や演奏技術の要素もそこまで重視されないゆえに感情移入しにくいように、「ローリングガールズ」もメインストーリーもキャラクターも(なんせモブを自称するくらい)半端じゃなく弱いし、作画がリアルできびきびして素晴らしいというわけでもないんです。

 その点で商業的に評価されづらかったと思うんですが、深夜アニメという界隈でトータルで進行しつづけてるリミックスとサンプリングという特性はこの3年で見た中でトップと思います。

 というわけで『ローリング☆ガールズ』が深夜アニメというフィールドで優れている部分を最も見せたアニメと思います。おすすめは1話の頭から見るというよりも、ニコニコ生放送などで一挙放送した途中から見てみることです。今後やるのかまったくわかりませんが…セックスか戦争を知ったガキのモードのベストです。観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、もう少々お付き合いください。

 

 

 

 めちゃめちゃ話題になった作品ではないなか、放映終了から何年か経過したあとに音楽のベスト発売はけっこうよいニュースでした