結構前からひっそり期待してる作品の話です。日本でもアメリカでもなく、ヨーロッパでもない国が作った作品です。
父を探して 監督 アレ・アヴレル
2014年にアヌシーやザグレブといった、世界のアニメーション映画祭にて数々の賞をかっさらったのは、なんとブラジル出身の監督の作品でした。その当時にアヌシーの映画祭公式サイトを眺めていてどんなもんだろと長らく思っていた作品が、いよいよ日本で公開されます。
一見シンプルな手描きの描線によるキャラクターが目を引きますが、その背景はリアリスティックな描写が続き、時には写真のコラージュやグラフィックデザインのようなアプローチなど、多彩に変化するようです。漫画フリークの方ならばご存知と思われますが、「足潜り水族館」のpanpanyaの作風に近いように思われます。
しかも長編であるにもかかわらず、全編セリフ無しというスタイルだと言います。短編ならともかく、すべてをアニメートとデザインで見せるというのは相当なコンセプトの確立と強弱をつける流れが無い限り難しいという、アニオタが押井守の「天使のたまご」で分かってることに着手しているのです。
とはいえピクサーにも「ウォーリー」という前例があるので、上手くハマるとセリフ無しの効果がここまで高いものになるのか、と思い知らされるものがあります。あれは全編こそセリフ無しでありませんでしたが、序盤で荒廃した未来の風景と、地球に人類がいなくなっても残された起動し続けるシステムという光景だけで世界観を語っていき、言葉の通じない相手とのささやかな仕草を重ねるコミュニケーションの映像の面白さと美しさは随一でした。
でも商業の長編として完全に振り切ることはせず、後半に行くにつれ宇宙に住居を移した人類とウォーリーたちがってシークエンスになると、一般の映画のストーリーテリングになってつまらなくなってしまいます。たぶんそうしてギリギリ喰いやすくした・長編としての序破急をつけきちんと締めるためそうしたと思われ、本当に全編をアニメートとデザインのみで長編を成立させるというのは、実力が問われる挑戦的なスタンスなのです。
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とはいっても少年の旅路の中で現実に触れていくという構図なので、基本は王道ではあるのです…と書きながらも、どこかで異なる印象があるのはやはりブラジルという国のムードゆえでしょうか。ブラジルが舞台の映画と言えばやっぱり「シティ・オブ・ゴッド」で描かれたファベーラ(とんでもなく治安の悪い貧民街の名称)の印象がぼくには長らくこびりついておるのですが、その殺伐さに裏打ちされた華やかさと奇妙さは「父を探して」のトレーラーの段階でも感じられるものでした。
配給は株式会社ニューディア―が担当しております。こちらはアニメーション批評家にして国内外のインディペンデント・アニメーションの上映イベントを行ってきた、おそらく日本のアニメーション業界の重要な一人になりつつある土井伸彰氏が昨年立ち上げた会社であり、本作は現行の世界のインディペンデント・アニメーションの最高クラスの長編をついに日本で公開!という形です。
公開される映画館の数はちょっと絞られてるのですが、「マジでこうしたアプローチでアート短編なら収まり良いものを、本当に長編で成立させてしまうなんて凄まじいことは成り立つのか?」という意味で大変に期待しています。ということで公式サイトのインタビューや配給を行ったニューディア-代表の土居伸彰氏の書いたレビューもおすすめしつつ、公開後にお会いしましょう。