17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

本質を拡張するいしづかあつこ監督の「プリンス・オブ・ストライド・オルタナティブ」感想

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プリンス・オブ・ストライドオルタナティブ 視聴フル

 

 またひとつ現れました。瞬間的に熱しすぐさまに忘れ去られ、次なる瞬間に繋げる礎です。

 

 とくに前口上も無くはじめた2016年冬のモードですが、企画こそ引きは弱いけど実際観てみると裏で凄いというのが続きますね。今作は女の子のお客様狙いなんですけど、そのデザインとパルクールをメインとしたアニメートの組み合わせは面白いですよ。「デュラララ!」をもっと完成度を上げたらこうなるのではないでしょうか?

 

 かなりいいなと本作に関わっているスタッフを眺めてみたら、なんと監督はいしづかあつこではないですか。表だって作家性を語られることは少ないと思うんですけど、近年関わった作品のデザインは他の作品とは一線を画しているとおもいます。

 

 「プリンス・オブ・ストライド」はまず彩度を抑えめにしたキャラクターデザインに、 使用する色数を絞っているという意外に引き算して構成されています。そのため、近年の作品なら「つり球」とか「ガッチャマンクラウズ」の構成をより絞った画面が印象深いです。スタイリッシュとか中二病とかって形容の差は足し算か引き算かで決まる気がします。うそです。

 

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 このレイアウトやデザインはビデオゲームの「ミラーズエッジ」というパルクールアクションを扱った作品に近いです。白地の建築に青空というコントラストの中、パルクールし、フォントデザインが挿入されるというデザインからも影響を受けているのかもしれません。

 

 

ミラーズエッジ

ミラーズエッジ

 

 

 

 

 近年のいしづか作品は「ノーゲーム・ノーライフ」や「ハナヤマタ」などなど、ラノベや4コマ原作ながら、その背景にあるモチーフの魅力をより引き出すデザインが洒脱でした。引きこもりのゲーマーの精神の暗部がそのまま映像になったかのようなデザインや、日本の祭りの淡い感じを引き出すデザインなどなど、だいたい原作の姿かたちの再現レベルの表面的なところでデザインが終わる所を一歩踏み込んで魅力を引き出しています。

  

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 いしづか監督がこうした元のモチーフから魅力的な部分を引き出すデザインが出来るのも、もしかしたら学生時代にアート・アニメーションからキャリアをスタートさせてから商業アニメーションに来たと言う経歴が関係あるのかもしれません。

 

 デビュー作の「引力」はまさに短編ならではの題材とアニメートを持った、黒い背景に白い線が目立つ作品です。続く「CREMONA」ではイタリアのバイオリン職人のささやかな恋愛を描きます。いずれも山村浩二*1的なフリーハンドの描線基調です。ところで上の埋め込みのニコニコ動画のコメントを眺めたら、やっぱり一部のオタクは本当に人間のクズなので生かしておく意味はないなと思いましたね。

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  マッドハウス入社後に監督デビューとなったNHKみんなのうた」での「月のワルツ」ではセルアニメにて、アートアニメーション的なドローイングの味わいを生かす試みを行っていました。それは押井守の「天使のたまご」は最初からこうした短編として生まれてくるべきだった、と思わされます。

 

  正直いうと短編アニメーションから商業に進んだと言うケースはあまり知らないのです(「じょうぶなタイヤ」の庵野秀明とかちょっと違いますし…)。ですが、いしづか監督の経歴を観るに、ガチガチのアニメートやデザインを先に構成するステージから長編アニメーションに降りてきたたとえば現在の有力な作家にひらのりょう*2や冠木佐和子がもしも商業アニメーションに転向したとしたら、やはりいしづかあつこ監督のような結果になるのでしょうか?特に冠木佐和子にのんのんびよりみたいなの作らせたらどうなるのか観たいです*3

 

  そしてなにげによいのは日本の商業長編アニメーション監督にありがちな実写映画コンプレックスみたいな感じがないことがよいです。2d手描きセルアニメはやっぱ平面表現基本なのだからそこを追及する方がよいですね。

 

 いかにリアリスティックに描くかよりも、リアリスティックにやることを分かったうえで、平面表現でしか生まれない魅力を追っかけてる方がいいです。本作は「FREE!」と客層やスポーツの作画の質から比較されやすいと思うんですが、実写映画コンプレックスの有無でストライドのほうが良いと思います。

 

  適当ですけど、いしづか監督はたぶん今後3年か4年くらいのあいだによい原作や企画脚本などなんらかのタイミングさえ合えば、ヒット作を生み出す可能性は高いと思います。

 

  なんてヒット予想の説得力ですが、ゲスの極みのぼくがこうして魅力がすごいよといった作品のBD・DVD販売本数はというとおおよそ大変ヤバいため、皆無に近いのでした…*4 客層を見据えた企画力と、観客を引き付ける脚本力を度外視した書き散らしが褒めるものは誰を救えるのだろうか?孤独という、あの深淵から…… 観たアニメは忘れましょう。でも培った乙女とえのぴょんはそのままに、水曜日は両成敗でいいじゃない部屋とYシャツと遣隋使でお会いしましょう。

 

 

 

 

ジパング

ジパング

 

 

*1:日本のアートアニメーションの最前線で活躍するアニメ作家

 

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*2:ひらのりょうはこのような作風です

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*3:冠木佐和子はこのような作風です

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*4:2015年のベストであるローリング☆ガールズは、初週販売本数1000本未満でした