またひとつ現れました。瞬間的に熱しすぐさまに忘れ去られ、次なる瞬間に繋げるための礎です。
底抜けの作品が膨大に現れた中、ついにぶっちぎりの作品一本来ました。はっきり言って日本の深夜アニメテリトリーでの商業アニメの(表現面の)面白さが全部固めてある、と言えます。
正直今年の前シーズンひっくるめても上位。だめだとするならたぶん、「ラブライブ!」みたいなコンテンツ性の水準が低い、脚本が大したことない、キャラがだめ、アフィリエイトをネタにしているのが寒いのいずれかだと思います…ってこれ、結局『ローリングガールズ』それから『フリクリ』『京騒戯画』褒めてるようなもんじゃねえか!とりあえず作画アニメファンやテンポを重視するファンだったら絶対外さない。あまりにも今季では飛びぬけすぎてる。
京アニとシャフトがフラッグシップを握っていた時代から安定期に入り、邦画の名作を撮るような大家みたいな(ある種、つまらなくなりつつある)手つきになりつつある質の高さと比較すると、今作はもの凄く野心的に商業アニメならではの作画や画面作りによる質の高さを提供しています。
一つずつ日本の商業アニメならではの面白さを書いていくとまず作画の質感を強く生かす構成を取っていることが大きいです。薄いグレートーンをベースカラーに置き、キャラクターにもそれほど影を置かず、ディテールの細かい装飾はつけない。描線もコンテの跡が残るかのようにしている。
そうすることでキャラクターの表情や仕草、アクションそれぞれのアニメートの手描きの質感そのものが生きる。実際、会話劇が主体ながら他の作品ではまずやらないくらい、こまやかな仕草からダイナミックな動き(ほぼ皮肉みたいな巨乳描写とか含めて)が生き生きと描かれているのです。
作画の傾向や背景レイアウトの質なども含め、田中達之的なケレンやクオリティをちょっと思い出しますね。
第二に大地丙太郎か『シンゴジラ』かトリガーか、というくらいにカットの移り変わりのタイミングや挿入されるタイポグラフィ、早口でのセリフの切れる瞬間でのシークエンスの切り替えという、テンポの良さ。主人公とヒロインも相まって『化物語』的と思ってしまいますが、あちらは静止画や別の画風のカットなどで持たせていました、ところがこちらは作画のテンションとそのテンポが両立しており、ある意味で『キルラキル』以来の そうそう、劇伴もいいんですよ!
さらにはここのところリアリズム路線の『僕だけがいない街』のEDでは少々浮いていた石浜真史のOPアニメーションがここでは全開になっていることも見逃せないでしょう。さっき田中達之とか挙げましたが、石浜真史もふくめアカデミックなデザインを通過してないゆえのディテールの過剰さ(足し算傾向のデザイン)がありますが、そこが本作のテーマに一致してると思います。
作品の題材的にビデオゲーム『ペルソナ』シリーズとの比較が為されると思うんですけども、吉祥寺というロケーションにオカルトネタが絡んでくる、SNSやネット中継ネタの絡めように加え、全体をまとめる中坊的なスタイリッシュさのデザインなど実際共通点は多数。それだけに、まじめに『ペルソナ』がアニメ化されるとしたら、半端に原作ゲームのムードを崩さないようにする配慮ではなく、こちらのアプローチが正解だったのではないかなと思います。
まとめますと、『電脳コイル』や『鉄腕バーディー』など全滅したかに思われた作画アニメーションの最良の生き残りのようなデザインであるし、一方で作画的なリソースを裂けないゆえに発達しただろう膨大な会話を詰め、カットを切り替えていくタイミングとテンポの二つが両立している。OPやEDアニメーションを担当したアニメーターのアプローチも作家性と本編と一致しており凄いシナジー効果を発揮している。正直もの凄いことをやっています。
ビデオゲームで『ペルソナ5』がヒットし、高速のセリフとタイミングで見せた『シン・ゴジラ』がヒットすることの時代、『オカルティック・ナイン』がウケる可能性は十分にあると妄想するが現実は厳しく、いくら作画が魅力的とかテンポが魅力的とか背景美術も最高と言おうが、キャラがつまらない脚本がまずい面白がれるフックがわかり辛いなどが揃うことでけた外れの本作もやすやすと人々は忘れ去るのです。
では忘れ去られたとしても再評価・リバイバル的なことがあるかというとそれが行われるのは『キルミーベイベー』という前を見ても地獄、後ろを見ても地獄という状況、どうあれ最後までクオリティを保ち完走してほしいと願ってしまいました。観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。
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