17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

「京アニ製作のワン・ビン監督(中国の暗黒の現実を撮る映画監督)」の緊張感を持つ作家、リュウ・ジアン

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今月から渋谷のシアター・フォーラムで始まっている「長編アニメーションの新しい景色」でいくつか見てきました。世界各国のアニメーションが揃う中、欧米のセレクトがもちろんなんですがぼくはアジア各国の作家が気になってます。昨年「新感染 ファイナル・エクスプレス」がヒットしましたが、あの監督を務めたヨン・サンホさんはアニメーションが本業なんですよ。彼が製作した「豚の王」(こわいタイトルだ…)もプログラムに入っています。(※追記:配給の関係で今回の特集上映で「豚の王」の公開中止が発表された)

 

アジア勢の中でも一番自分が注目していたのが中国のリュウ・ジアン監督の「PIERCING Ⅰ」。これは日本の商業アニメーションで言ったら京都アニメーション製作で、ガチの中国のドキュメンタリー的な作風を持つワン・ビン王兵)が監督しているような緊張感があるのです。

 

ちょうど予告でワン・ビンの新作「苦い銭」が流れたのもあって、本作で描かれる中国の都市部の気配や気分というのがそのまま重なって見えたのでした。

基本は犯罪ドラマなんですが、その痛ましい手触りは現実の中国から来ています。舞台は2000年代後半に起きた、アメリカのサブプライムローン問題を火種にリーマン・ブラザーズの経営破たんによって発生した世界金融危機後の中国。国内の工場は次々と閉鎖し、そこで働いていた主人公チャオは首を言い渡される。

友達とこれからどうするか、地元で農家を継ぐかどうかという話をするという、もともと悪意はない一般人です。ところがそんな彼がスーパーの守衛に泥棒と誤解され暴行、交通事故にあったおばあさんを助けるも、なんと警察に交通事故を起こした犯人だと勝手に思い込まれ、暴行を受ける。職を無くし、経済的にも立場的にも弱者である主人公チャンに対して、権威ある立場の人間が悪だとしていくんですね。これがマジでキツいんです。

追い込まれたチャンは友達とどんどん反社会的な発想になっていき、それが大きな犯罪事件を生んでいくというシナリオです。

アニメであるに関わらず、冷たい現実のショット

リュウ・ジアン監督もともと芸術大学を卒業した画家がベースであり、同時にアニメーション製作を始めたという経歴を持っています。それゆえか、本作で描かれる都市部の背景美術はおそらく実際にロケハンし、撮った写真をベースにして書き起こしている。

現実の都市部をロケハンして書き起こし、しかもそれを現実とは無関係な作品世界を形づくる材料にするのではなく、現実世界とほぼ同じものとして作品世界を立ち上げるプロセスによって、たとえアニメであろうとドキュメンタリー的な効果が発生しています。

この効果は日本の商業アニメで言えば劇場版パトレイバーシリーズなどが思い当たりますけども、あちらがロボットアニメに真実味を持たせる意図に対して「PIERCING Ⅰ」はそのまんま、生で中国の低所得層の現実が入ってます。

 

さらに、すべて写真の画面で構成されるというのは実写映画の方法論で言えばすべてフィックス(カメラを動かさず、固定して画面を作る手法)で撮影しているとも言えます。フィックス中心であること、さらにドキュメンタリー的であることという点で、一見似ても似つかないかもしれませんが京都アニメーション(2010年前後くらい)なんかも思い起こさせたりもするんです。

 

 

最新作「have a nice day」も国内の配給が決まったらなあ、と思います。作り事のアニメーションであるにも関わらず、しかもリュウ・ジアン監督本人の自意識の発露でもないバランスで、中国の現実を犯罪映画という形で静かなエンターテインメントとする才覚を発揮しています。観た海外アニメは覚えておきましょう。培った技術はもちろんのこと、次回にお会いしましょう。