17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

『龍の歯医者』が桁外れなセンスオブワンダーを爆発させる、その理由

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 またひとつ現れました。瞬間的に熱しすぐさまに忘れ去られ、次なる瞬間に繋げるための礎です。あの日本アニメ(ーター)見本市から長編化したデザインでこうきたかとおもいましたよ。短編の時は『ヱヴァンゲリヲン』のときとほとんど同じデザインで作った習作という印象が強かったんです。方法がヱヴァと同じなので、本作ならではの意味って感じられなかったんです。

 ところが今回長編では全く違うアプローチを取ったことで、本作ならではのオリジナリティの感じられる印象に変わっています。いい言葉が見つからないんですが、なんといいますかセンス・オブ・ワンダーを感じさせる方向に転換していて、そこに感激しましたね。

 

 まず短編から比較して驚くのは、歯医者たちが集う奇妙な龍の口の中のやけに白く、薄い影だけが差した美術、色数の抑えられたキャラクターたちのカットです。これは現実なのか、幻想なのか。それが曖昧です。これだけで長編版『龍の歯医者』が短編版と全く違うアプローチをとっているのがわかります。

 

 短編版は劇場版ヱヴァとほぼ同じデザインを取っているのもあり、念入りに架空の世界を現実みたいに感じられるよう描写する(いわゆる美術用語でイリュージョンとかいわれるやつの)描き方でした。龍というのは実体ある生物であり、なんらかの生態系のなかにも属しているようなふうに見えるんです。ヱヴァというのがそもそも特撮なんかの影響もあり、架空の世界を現実のように描き出す方向であったことには違いありません。『エヴァ破』でその完成形を示しているのもあり、同じ手法で行うと短編のときの龍は、幻想ではなく現実に存在するもののように描かれてるんですよ。

 

 ところが長編版の今回はまったく逆にアプローチしています。龍というのが実体ある存在ではないように見える。歯医者たちも実体ある世界観のなかで生きているとは見えないようになっている。こう書くと、架空の世界の説得力に欠陥がある風に聞こえるかもしれません。

 ですが、ヱヴァのリアリズム路線から徹底して描写をそぎ落としていき手描きの質感を生かすような、曖昧なデザインをとったことでついに本作ならではのオリジナリティが出たと思います。

 結果、漫画家で言うなら『宝石の国』や『虫の歌』の市川春子作品であるとか、または野心的なWeb漫画サイト「トーチ」にて連載されていたカシワイ作品の『107号室通信』、さらにさかのぼれば高野文子でアクション寄りにしたような作品(『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』あたり)をも思い出すのです。それらの作品はリアリズム路線ではなく、シンプルな描写で永遠にも思えるような印象を残していくのです。

 

 

 

 

107号室通信 (torch comics)

107号室通信 (torch comics)

 

 

 こうして鶴巻和哉作品を見直すと、氏の監督作品はあんまりリアリズム路線でもないし、または日本のアニメ界隈にうけるお約束の方法やモチーフはとらないようにしている印象はありますね。日本アニメ(ーター)見本市での『I can Friday by day!』などを見ても、たぶん先述の漫画群や『アドベンチャータイム』あたりのほうを志向してんじゃないかとおもいますし。

 

 そこんところが局所的にリアリズム路線を徹底する・過去のアーカイブをサンプリングしてリミックスして作るし、実写監督も行う庵野秀明と対照的なのです。鶴巻和哉はとくにリアリズムある世界の構築ではなく、手描きアニメならではの質感や方法を特化することに自覚的な印象あります。『龍の歯医者』の短編から長編へのデザインの変化は、そのまま庵野秀明鶴巻和哉の方向性の違いが出てると思いますよ。架空の世界をさも現実のように描くよりも、シンプルにひかれた線の質感が、ずっと世界を想像させるようにしてる違いですね。観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。

 

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