17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

地味だが、実は化物のようなアニメ「甘々と稲妻」

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甘々と稲妻 視聴フル 制作:トムス・エンタテインメント

 

またひとつ現れました。瞬間的に熱しすぐさまに忘れ去られ、次なる瞬間に繋げるための礎です。

 

 いきなりですがこの「甘々と稲妻」は一見地味で保守的なデザインに見えて、かなり繊細に作っており素晴らしいです。前期では「ふらいんぐうぃっち」が似た感じでしたけど、今作は類型的なところに落っこちてしまうぎりぎりのところでこらえ、優れた1話になっています。

 

 まず初めにこの作品、全くナレーションを使わず、冒頭の生活描写のなかだけで「主人公の犬塚は妻を亡くしていて、教師をやりながらシングルファーザーとして子供を育てている」という主人公の背景をあっさりと伝えるシークエンスは激賞されてしかるべきと思います。

 

 原作は未読なので原作通りなのかアニメオリジナルなのかはわかってないですが、比較的保守的な絵柄ゆえに説明過多になりがちな作風でもおかしくないところをここまで抑え、映像だけで見せるように注力していることがまず素晴らしい。主人公犬塚公平とつむぎの日常動作のアニメートでほとんどを見せていくことを徹底しています。膨大な公平のモノローグで進行していたらたぶん10分くらいで切っていました。

 

 結果、1話を通して悲壮感が通底音にあることがわかるのだけど、つむぎの明るさと美味しい食事というポップな部分がずーっと揺らぎ合うっていう、たぶん多くの人がもの凄く好きな感じが意外に詰まってる作品になっていると思います。

 

 食事は全てコンビニの弁当や電子レンジでの調理であるが、つむぎは残してしまう。それは暗にまだ母が生きていたときには美味しい食事を作ってもらっていたということを示している。そのことに気付いた公平はほんとうにまっとうなごはんを作ることを覚えることを決意し、同時にそれは妻の死に向き合うことでもあるという脚本の流れもかなり良いです。

 

 「漫画の一大ジャンルである料理もの」とか「よつばと!以降の父と娘もの」「教師と美少女の生徒の(恋愛になるんだかなんだかな)関係もの」のいずれもこの作品は踏んでいるんですが、そんな先行作品のフォロワーに落ちてはいません。そうさせないようにした優れた部分は、説明を可能な限り排し、日常描写でストーリーを描くことを徹底している点です。まるで優れた邦画を見ているかのようでした。こればっかりはスチールの先入観だけではわかんないし、観ないとわかりませんでした。

 

 なんだか熱っぽく書いてしまってますがいつもどおりクールに締めます。観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。それにしても本当に外食や電子レンジでの調理ばっかりだと体と精神を崩すんだ、めっちゃ忙しい時でもある程度正しい自炊を覚えたいですね…

 

 

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