17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

アニメ史上最強の能力の『Room Mate』の主人公に震える

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Room Mate 視聴フル

 

 アニメの主人公と言えば何らかの特殊能力持ちが魅力ですが、今期のなかでもとびきり凄まじい能力を持っているのが『Room Mate』の主人公でしょう。そのあまりのスペックの高さは他メディアのゲームや映画と比較しても類を見ないほどです

 主人公の立場が凄い

 凄まじい特殊能力を持つ主人公は、実は凄い血筋を引いていたとかたいそうな立場であることが少なくありません。Room Mate』もそんな主人公らしく立場からして違います。

 一見すると冒頭のvネックの男性が主人公かと思うんですが違うんですよ。解説をみるとなんと「主人公は視聴者(あなた)!主観目線で憧れのあの人との擬似な日常を体験!」そう、なんと自分は一切傷つかずコンテンツに対して文句を言い続けられ、コンテンツ側はお客様だからもてなさざるを得ないという視聴者の立場なのです。これほど無敵の立場を持った主人公がいるのでしょうか?

 

主人公のスピード、身体能力が凄い

 一人称の主観視点で有名なものはビデオゲームの世界では『Call of duty』シリーズなどでおなじみのFPSがあります。近年ではそのエッセンスを利用した映画で「ハードコア」という主観視点のアクション映画が公開されましたね。この映画も「主人公はあなた」ということを売りにしています。


 FPSや、映画『ハードコア』の魅力はまるで自分が作品世界の空間の真っただ中にいる臨場感にあります。まるで自分の目線で、自分の足で走っているかのような体験ができることが大きいですよね。

  ひるがえってRoom Mate』はどうでしょうか。主人公=あなた、主観目線ということはFPSのような体験を売りにしているはずです。それに乗っ取るならば、この作品の主人公(つまりぼく)は『ハードコア』が霞んでしまうほどの凄まじい運動能力を発揮していることになるんですよ。『ハードコア』が人間ができる身体能力の限界を体験できるとしたら、人間を超越した身体能力を体験できるのがRoom Mate』です。

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 まず冒頭から身体の柔軟性が並外れていることを示します。なんと地べたにうつ伏せになり、スーツケースのキャスターを難なくすり抜ける。いくら製作者側が視聴者を神様のようにもてなし、必要以上に高く見てくれると言ってもジャッキー・チェンか、それともシルク・ド・ソレイユの演者くらいの身体能力を持っている人間くらい高く見積もってもらうのはやりすぎですよ。『ハードコア』でも走ってくる車を仰向けになってすり抜けるまででしたからね。まだあれは「もしかしたら自分でもできるかも」と思わされる。でもスーツケースは無理。しかし、これで驚いているのはまだまだだったんです。

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 次の瞬間、なんと家の前まで高速移動!自分の上を通り過ぎたはずのスーツケースをはるか先に追い越して到着しています。スーツケースが体の上を通り過ぎてから音もなく、あっという間に移動しています。このスピードからおそらく『ドラゴンボール』の悟空やベジータクラスの身体能力を持っているということが推測できます。視聴者は神様、神様と言えば神様と闘う悟空たちということで視聴者であるぼくらをそこまで高く見てくれているのかと思わされます。

 

他人との距離間を気にしないのが凄い

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 これ以降、常時瞬間移動する身体能力を発揮するどころか、最近のアニメらしく他人との距離間が完全にぶっ壊れたふるまいを見せます。門の前に到着したと思ったら、なんと隣の壁を登っている人物が!いったいなにをしているんでしょうか…まったく見知らぬ他人に対し、声をかけるべきなのかとぼく(主人公)が不安になった瞬間、主人公は何をしたかというと想像を絶する行動に出ました。

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 壁とこの男の間に瞬間移動。はあ?なにを考えているんだ…この世界のぼく(主人公)はスーツケースの隙間をすり抜けられるくらい軟体で、あっというまに数十メートル先に瞬間移動できる能力を持っているほどに人間の身体能力を超越しているのはわかるんですが、ちょっと他人にまずどうコミュニケーションをするのかの精神構造までも超越している

 しかし、この男もこの男で精神構造が超越されています。壁を登った(この間、ぼく(主人公)は瞬間移動を多用している。カット割りのように)あとに「君だれ?」と言葉を交わします。よかった。ようやくコミュニケーションが成立した…と思ったらこの男は普通に壁から飛び降ります。だから何をしてたんだ?家の修理とかじゃねえのかよ!ぼく(主人公)はこの男に視線を合わせ、ともに地上に落ちていきながらそう思いました

 

いつ殺し合いになるかわからない、ぎりぎりの緊張感

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 会話の中でようやく自分がなんなのかをこの男が教えてくれます。なんと管理人。え?じゃあスーツケースをぼく(主人公)はどういう風に運んでたわけ?冒頭のあれはまずスーツケースをドーン!って押して前に進んでいるところを回り込んでいきなりうつぶせにしてたわけ?それこそ瞬間移動して?

 いや、待ってくださいよ。ここまでの特殊能力をぼく(主人公)が発揮してるということは、つまりこれから管理人として住人からしっかり賃料を徴収するぞということで住人に圧力をかけているということでは?また住人のほうも何の意味もない壁のぼりをしていたかに見えながら「そう簡単に圧力は受けないぜ」という身体能力の高さをアピールしていたということ?でなければ、上の画像のように「持っていくよ」といってスーツケースを肩でかつぐ意味のない行動を取る理由がありません。お前、さっきから瞬間移動と軟体でおれたちに圧力をかけてはいるけどそう簡単にはやられないぜ。本気になったらひとひねりするぜ。身体を超越した能力者であるぼく(主人公)と、身体能力だけを生かす住人たちとの、いつ開戦するかわからない緊張感。駆け引きとにらみあい。これは…能力バトルアニメなのです。

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 事実、ぼく(主人公)はEDのアニメーションで住人たちがどれほどの身体能力を持っているのかを見定めようとしています。上のシーンは住人3名と柔らかく談笑しているかのように思われるシーンなのですが…

 

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 透視して彼らの身体能力を確かめようとしています。談笑しているようでありながら、根底には不信感がある。一歩間違えば血まみれの闘いになる手前で、ぼくたちは仲が良いふりをしているのです。平井和正幻魔大戦CLAMP『X』、鎌池一馬『とある魔術の禁書目録』に続く2010年代―いや、テン年代の能力バトルは、一見日常で仲良くしているふりをしながら一歩間違えば殺し合いになる緊張感を抱えています。ぼく(主人公)は軟体と瞬間移動、透視能力を駆使しながら「金を払えよ」と圧力をかけ続け、住人たちは肉体の強さで圧力をぼくたち(主人公)にかけてきます。

 しかし登場人物たちが圧力をかけようが、ぼく(主人公)を傷つけることはできないはず。なぜなら視聴者であり神なのだから。では一歩間違えば殺し合う緊張感はないのか?いや…さらに上の階層からぼく(主人公)に圧力をかけています。このアニメの製作者サイドからです。

ぼく(主人公)の正体は…

 考えてみれば、そもそも視聴者(主人公)は人間なのでしょうか。スーツケースのキャスターをすり抜ける軟体や、瞬間移動しながら平然と他人の顔の間近に移動したりする、他人との距離が崩壊しきった存在。メタに観れば、視聴者とはほぼ匿名でコンテンツに対して文句を言い、ひとたび火花が起こればイナゴのように集まり、俗にいう炎上すら起こる。コンテンツ制作者側は反省しか許されない。…ん、ちょっと待てよ…?イナゴ…まさか…

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 そうか…スーツケースをすり抜けるのを軟体とか思い込んだことからして間違いだった。観客、最初からイナゴ(的な小さい虫)だとしたら話が通る。瞬間移動を持ち、スーツケースをサイコキネシスで運ぶイナゴ。イナゴには他人との距離などない。我々には倒すことはできない。ただもてなさなくてはならない。視聴者はお客、神様である。ただ、神様は人間ではない。それが果たしてどういうことなのか。そうメタなレベルでは圧力をかけているのかもしれません。製作者と視聴者の、一歩ズレれば血みどろになる関係の能力バトルーそれが『Room Mate』です。

 観たアニメは忘れましょう。それから培った技術もモードも投げ捨てて、次回にお会いしましょう。

 

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