若手作家やベテランのプロモ的な意味で各所で短編アニメーションの制作・発表・コンペティションが存在してる。ざっくり見た中で最近目にしたのはたとえば全国のイオンシネマのCMにて公開されるアニメーションという形で公募を行っている若手アニメーション作家支援プロジェクト・HAGであったり、アート系から商業系のラインのそれぞれ(あーこの区分け間違ってるかもな)でプロジェクトがあるようだ。
最近の中で(おそらく)ブランドや規模からしてかなりデカいと思われるのが「新エヴァ」のスタジオカラーとニコニコ動画のドワンゴ主催による「日本アニメ(ーター)見本市だろう。公式サイトからいくつか観れるので、そこの書き散らし。
龍の歯医者 視聴フル 監督 舞城王太郎&鶴巻和哉
短編に求めることはその5分から20分くらいの範囲内でイマジネーションがどれだけ揺さぶられるかの作りをするかなんだが、アートアニメーション界隈はともかく商業アニメーション界隈における短編ではハナから2クールの長編アニメの1話目のような作り方をしているのが少なくない。トリガーの「リトルウィッチアカデミア」とか。
鶴巻和哉アニメーション監督による本作のアニメートは、新ヱヴァとおそらく手法は変わらない。もの凄く精微な背景に、柔らかめな動作をするキャラクター。そして色調をまとめるグラデーションのレイヤー。 手前から奥への移動のカットの背景CG。軍艦が海に並ぶカットの上に浮かぶクリーチャー。
商業アニメーションの短編で思うことはもう一つある。舞城王太郎であるとか、鶴巻和哉個人の作家性だとかよりも全体的に技術テスト的でありどうしても全体の世界観も内容もあんまり頭に入ってこなかったりする。ん?見本市なんだし技術テストでいいのか……
HILL CLIMB GIRL 監督 谷東
アニメーションの作画で乗り物で何が描くのが難しいか?というと、自動車や飛行機、戦車などではなく何より大変なのは自転車らしい。だからなのか、現在各所のアニメで自転車のシーンが描かれるようになっているのも3DCGによる補助というのが大きいらしい。フル3Dで構成された本作はおそらくそういう表現手段ゆえにテーマが自転車では?
開始早々から「うわっ古臭めのセルルック3DCGの自転車シーン!」と思わせるほどやや質の低いものを見せておきながら、次の少年少女にカットになった瞬間びっくりする。キャラクターの造形がほとんど手描きならではの2Dのウソと気持ちよさをかなりトレースした3DCGになっている。「楽園追放」とかは観てないんだけど、日本は日本でディズニーの「紙ひこうき」的な2Dと3Dの折衷を追ってる一つ。
……とか、また技術テストのような感想でしょうがねえな。うぇーっとなんでスポーティな女の子にしようとしたら細田版「時をかける少女」みたいなショートカットばっかなんすかね?2Dのウソを3Dでトレースするというのは今後のデザイン上それが新しく、そして旧来のものを別の意味に変えることを望みたいとこだけど、「楽園追放」のデザインと言い、革新的なことをやろうとしながら旧型で紋切り型のデザインのダサさまでも3Dでトレースするってのは解せないひとつではある。
ME!ME!ME! 監督 吉崎響
7分間の短編アニメーションという枠内ならこれはもの凄く出来がいい。7分間の中で完結してる上に各種表現を使ってるし、実質2曲の楽曲のPV的に作ってるのもよい。前から書き続けてる音楽と映像の一致を目指してるのもいい。
なによりグリッチ(画像のバグをお洒落やクールだとするデザイン)を絵的に取り入れているのもいいし、楽曲の中にもダブステップ的な瞬間が混ざっており映像の表現と韻を踏んでいるのがいい。
作ってる側のデザイン能力やレイヤーの高い視点から日本のアニメのガジェットを眺めてるような感じがかなり作用しており、現トレンドの京アニシャフトトリガーの代表作並の視座はある。場合によっちゃスタジオカラーの新ヱヴァよりも俯瞰した位置にあるかもわからない。
巨乳・ボーカロイド的?・エヴァのフィギュア・突然ヒーローに変身・なぜかFPSシーンなどなどのオタク文化的なるものの俗悪な詰め合わせ、変な話村上隆なんかの切り口に近い。ひとはカイカイキキを憎みながら一部の表現では近づきつつあると思っているのだが、各種の意味でこの見本市の中ではぶっちぎりで(短編アニメーションという枠内で)完成度が高い。
Carnege 監督 本間晃
手描きの描線&水彩の背景による、生きた絵による生々しさという路線は加藤久仁生の「つみきのいえ」を思い出すし、商業アニメーション界隈なら湯浅政明「マインドゲーム」「ケモノヅメ」を思い出させる。
しかしこれも構成が1クールだかのアニメの1話目のような切り口なので参る。全ての長編アニメを7分とか10分くらい観て評価する最強の書き散らしいやいや嫌がらせたるこのブログからすればこの時間見れば大体レベルが判別できるものだけど、このわずかな時間内でも引っかかることが多くて困る。
西部劇的なのに使うのはコルトガバメント?ということはかなり現代に近い世界なのか?いやその割に「カウボーイビバップ」的なSFのような広がりもない?音楽はまんま西部劇のBGM的で、じゃあやっぱり西部劇なのか?何よりオッサンとヒロインの顔面デザイン格差は一体?
西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可 監督 前田真弘
これも手描きの生々しさをそのまま持ってくるタイプ。だがこちらは構成や絵的に段違いによい。
「南くんの恋人」ネタでアイディアは面白くないがベテランらに培われたアニメートの鋭さがそのまま手描きで躍動してくるために単純に面白い。これも短編アニメーションとしての枠内でやれることでまとめているからよい。よい。なんだ?「よい。」って言い方?書くことないのか?ないよ。もう観たほうが早いよ。本作と「ME!ME!ME!」の2本に短編も高度にさばけるスタジオカラーのクリエイティビティがあると思うよ。
どうでもいいことなのだが、商業アニメーションで放送する際にはどうしても規制があることが予想される中、見本市という場の中でみんな鬼のように乳首を描いて全裸で走らせるというのを全開にするのを見ながら表現者にとっての自由とはなんなのかな、と思いを馳せるのだった―観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモード、そして文末のお決まりフレーズだけ何故か敬語になるのはそのままに、次回にお会いしましょう。
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