17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

ハルヒとかいるのかよ!日本短編アニメーション上映会「TOKYO ANIMA!2015」

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TOKYO ANIMA!2015 視聴フル 会場:国立新美術館

 

 4月25・26日に開催されたいまの日本の抽象アニメーション作家の代表のひとり・水江未来らをはじめ有力な作家たちの新作を上映する企画「TOKYO ANIMA!2015」にひそやかに行ってきました。

 

 公式サイトの過去開催されたプログラムのPVをみればわかるように、完全に商業アニメーションデザインの都合から手を切っているアート・デザインのレベルで作られる日本の短編アニメーション。完全にアートとして捉えたそれはなんつうか音楽におけるエレクトロニカとかテクノとかノイズを聴きにいく気持ちに近かったりします。

 

 そんな上映会らしく、会場に集まった客層の服装が誰もかれもノームコア(この単語を無意味に使う もはや日本に輸入され曲解された俗語の面で使ってる)じみていてすれ違う人から隣に座るひとまでニットキャップにニューバランスの人たちばかりの空間となっておりました。

 

 ともあれ短編アニメーションをこうした形で共有して観賞するという経験は初めてではあるので、不思議な感動がいくつもあったのでした…ということで面白かった作品をピックアップ。

 04/田中涼子「ちゅうちゅう」

蝶々とかけたタイトルによる切り絵アニメーションで紡がれる、キスから受精のイメージを横断していく。エロスの間合いの緊張とともに、そのまんま蝶々のイメージが乱舞する。

 

だなんてとてもエロチックでオシャレだねなんてほめているかに見えながら、唐突なSMのオッサンと女王様のイメージがぶちかまされるあたりのほうに真相ある気がしました。 

05/前田結歌「正太郎 」

 こんなセックスか戦争を知ったガキのモードなんて、商業アニメーションの基礎デザインが中高生くらいで女の子がいっぱいいて髪の毛原色でキャラ分けしたり極端なシルエットで分けたり…なんてのを普段から嫌がらせのようにやってるブログからしたら、このアニメ凄い感動です。

 

 おそらくタイトルの名前の男の子の主人公の周りに髪の毛原色分け極端なシルエットの女の子たちが現れる、ハーレムネタみたいな切り口ですが、そこにノイズやグリッチを意図的にぶちかまし、虚構だよーデジタルだよーみたいな意匠の掛けぶりがおかしかったです。当ブログのひどいコンセプト的には最高!です。

 

06/クリハラタカシ「Happy Bogeys 11-13」

 奇怪なガジェットの生物が何語なのかわからない一言を呟く一発ネタシリーズ。終わったと見せかけて「Happy Bogeys」を繰り返す天丼をぶちかまし、会場のおしゃれさんたちに一番オオウケしていたのでした…

07/最後の手段「おにわ」

 「最後の手段」!って制作者の名前です。絶対誰か一回はやりたがる、ピクシメーション、ストップモーション、手描きアニメーションと多種多様な方法織り交ぜまくったサイコアニメートです。まさに最後の手段!でもヤン・シュバンクマイエルもけっこうやってたような。実写で坊主の男はなにか前衛演劇をやっていそうなムードがありますがなんてことはなくバイトの後輩に出てみないかと声をかけたに賭けます。

08/トーチカ「TRACK」

 懐中電灯の残像を使い絵を描くピクシメーションを行う集団トーチカ。高速道路下の一点透視の構図を利用しラスコー壁画のイメージを利用した、幻想的な映像が展開されます。奥移動から手前移動のループを利用した映像、それを彩るBGMの見事さなど見ものです。

 

 TOKYO ANIMAは全体的に音楽も非常に優れたものが出揃っており、シンプルに時間芸術たるアニメートの本質面に接触してる感じあるのが良いです。

 

 

 話はずれますがこのTOKYO ANIMAにて日本のインディペンデントアニメーションの若手作家・若手評論家によって設立されたCALF作品としてリリースされてるこのトーチカをはじめ、和田淳・水江未来作品と鑑賞することができたのはとても感動的だったりします。

 

11/ひらのりょう「どこか遠くのファクトリー」

 かなり作為的で面白い作品。上のスチール写真のカットから一切カットは変わらず、日が上り沈むまでに起こる一日の出来事を映し続けるコンセプトとなっています。

 不気味な爆撃やクリーチャーの跋扈などなどエドガーライスの方でもウィリアムの方でもどちらのバロウズの小説みたいなイマジネーションがあり、ワンカットを延々と映す実験的な一方で野心的な作品でした。ゴメン、無理やりまとめた感はあります。

 

火星のプリンセス (創元SF文庫)

火星のプリンセス (創元SF文庫)

 

 

 

裸のランチ (河出文庫)

裸のランチ (河出文庫)

 

 

 

12/キューライス「失われた朝食」

 独特の絵柄であるサラリーマンの出社前の朝を何度も繰り返す。起きてトーストを焼いてテレビを見てヒゲを剃って・・・という当たり前のローテーションを続けるのだが、しかしあるきっかけによりそのローテーションは崩れ去り、無理やりにでもローテーションを戻そうとするもさらに悲惨なことに…みたいな強迫神経症ギャグアニメーション。ゾッとしながら会場のニットキャップもツーブロックも大ウケしていたのでした。そういや当初の不条理文学だとかは実はあれはけっこうギャグで作ってあったとかそんな話を思い出すのだった…

14/水江未来「RETRO FUTURE」

 水江未来の2010年作「MODERN」を、「鉄腕アトム」の音響デザイナーを務めた大野松雄による音楽によって再編した作品。詳しいことは水江未来のこちらのnoteにあるが、もともとがインダストリアルな作品だったのだが不穏さを増した印象になっています。

 

 抽象アニメーション作家と伝説の音響デザイナーというコラボレートは今後も続くらしく、第一弾としてこうした過去作品のリミックスを行ったとのこと。トーチカのほうでも書きましたが、純粋なアニメートを追及した場合の音楽や音響との接合っぷりは凄まじいわけで、そこんとこが観れるのが短編の良い所ではと思います(これは商業アニメーションサイドのアニメ(ーター)見本市でも思うことです。)

15/水尻自子「幕」

触覚を主としたイメージを描いています。ピンク基調のパステルなビジュアルで描かれるシンプルなアニメートながら、その緩やかな動き、触れる動作には異様なエロスが刻印されています。田中涼子さんの「ちゅうちゅう」もそうですが、その辺の間合いがすさまじいっすね。

16/シシヤマザキ「月夜&オパール」

 ルミネのCMのアニメでも有名なシシヤマザキのアナログTVの砂嵐の中でぶちかます歌謡悪夢。実写映像からアニメーションを描きおこすロトスコープ技法を主にしてるんですが、登場する女のモデルは全部シシヤマザキ本人!本作も本人が演じ、不気味な印象を植え付けてきます。

 

ということで

 

 普段の商業アニメーションがJPOP流し聴きな感じで挑んでるのに対し、今回初めて日本のアート・インディペンデントの特集たる今回はなにか音楽サイトで言うところのResident Advisorなんかの特集を聴いているかのような気持ちに近かったです。

 

 まあ一言で言ってしまえばすばらしい音楽や音響とともに紡がれる映像の面白さというのが凝縮されていたので、アニメーション非テキスト派には非常に面白かったのでした。