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葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』名作の続編、その弛緩した悪さと良さ

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マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 視聴15分

商業アニメでキャラクターやシナリオよりも、演出に特化したり、凝ったアニメートを見せたりすると、一部で観ているひとは嫌がったりしますよね。「作っている人のオナニーだ」なんて言ったりして。

こうした批判って、いくつか思うところがあります。観る人側からすれば、キャラクターやシナリオに凝った演出やアニメートが生かされておらず、観づらく感じたことをそう言ったりするわけですし、作る側からは観やすさとは違う方向から、脚本以上に絵作りによって伝えたいからというのがあるわけです。

たいていはクリエイティブと受け手はすれ違うのですが、ごくまれにマッチングすることがあります。それが『まどマギ』だったのではないでしょうか。

さて『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』は、すごく観やすく作られています。それが凝った演出やアニメートが特徴だった前作と比べ、ゆるくなったように見えるんですよね。 

傑作となった続編が弛緩した印象で始まり、ファンが「だんだんと面白くなってくれるはずだ」と願いながら観続ける、名作に関係する作品を観るときの、あの感覚にあふれています。

 観やすさとゆるさ

『マギレコ』は劇団イヌカレーが総監督を担当しているのに、この観やすさ重視の設計なんだと思いました。凝ったオープニングアニメなどの構成や演出を持つ石浜真史が『ガラスの花と壊す世界』では観やすさ寄りになって、短編での良さが出せていないのを思い出したりしました。

観やすさとはどういうことでしょうか?まずキャラクターやシナリオの邪魔をする演出がない。前作はシンメトリーのような構図を何度も使ったり、一切の生活感を感じさせない奇妙なまどかの家の美術を使ったりが目立ちます。

いまは評価も固まってなんてことないと思いますが、放映当時を考えると「蒼樹うめさんのキャラのよさが、シャフト演出で観づらい」とも見えるわけですよ。

 

 

まどマギ』での劇団イヌカレーの演出もすごく気合が入っていました。戦闘シーンが急にヨーロッパのコラージュアニメのようになる。そして平面的なコラージュアニメが生きるように(いわばスーパーマリオロックマンみたいな)真横から遠景のレイアウトで、画面いっぱいに蒼樹うめキャラとまったく違う絵で埋め尽くし、落差を生んでいました。

そこから10年近く経ち、当時のイヌカレーがやりたいようにやった(と思う)結果も、後の長編映画化からビデオゲーム化、そして今回『マギレコ』で先行していたスマホ版に至るまでコラージュは定期的に作られ続けていました。そのうちに、「『まどマギ』シリーズでのコラージュはこういうもの」と決まっていったと思います。

実際、『マギレコ』での魔女シークエンスに出てくるコラージュは、『まどマギ』シリーズ用の決め打ちや量産で作られた形になっているのは確かで、すでに決まったフォーマットに沿って作ったデザインになっていますし、画面を遠景にしてコラージュで埋めるという設計もないんです。

基本的にメインキャラが画面の中央に位置するミドルショットで、キャラがはっきりとわかるカットであり、観やすさが優先されています。『まどマギ』でやっていたように意図して平面的に見せ、すべてを記号みたいにするやり方は無くなっていました。

とても見やすくなったのですが、結果、『まどマギ』フォロワーのようなアニメみたいな印象が残ります。『魔法少女育成計画』みたいに、クリエイティブの優先がほとんどない作品に近いのでした。

ゆるさの良さを探す

さてここまでの書き方だと『マギレコ』はだめなのでは?とも読めるのですが、そうではなく豊かさを観ることはできないか、とも思っているんですよ。

名作の続編、関連作品、リメイクはおおむね緩くならざるを得ないです。豊かさ、という意味でわかりやすく考えるのは『エヴァ新劇場版』なんですよ。あれも自分にとっては緩さがあります。

意図してオリジナルのアブストラクトな演出を避け、キャラやシナリオを観やすくしようとしているから(『エヴァQ』も基本的なデザインはそうです)。だけどその結果、エヴァをもっとも観やすくした豊穣な結果として『エヴァ:破』があります。こうした豊穣さも、もちろんまれなことなのですが……

『マギレコ』が『まどマギ』で特徴としていた演出を捨てた先に、もしかしたら豊穣な可能性もないのではないでしょうか。エヴァは「オリジナルの暗い話を、望んでいた大団円にしてくれる」みたいなカタルシスで、『まどマギ』もオリジナルでほぼ大団円になったものの、全体の不穏さ、奇怪な演出ということでエヴァと並べて語られたりしますよね。

もう少し突き詰めて、観やすさと、実験的なクリエイティブの関係を考えるに「明るく大団円になるシナリオと、暗く抽象的なシナリオ」の関係とも符合すると言え、ではわかりやすい演出に踏み切ることが、オリジナルからの価値をひっくりかえす面白さ、というのがあったらいいなあ、とも見ております。

観たアニメは忘れましょう。そして培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。ちなみにスマホ版のストーリーは観ないで書いております。

 

 

マギア☆レポート (1) (まんがタイムKRコミックス)

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