17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

「けいおん!」再び…

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けいおん! 1話 視聴フル

 

 すでに忘れ去られたかもしれませんが、思い返してみれば巧みだったものもわずかにあります。

 

 あの「けいおん!」がNHKに再放送がやってたのでふと観直してみたんですが、今振り返ると異色です。「4コマの萌え漫画原作」とか「日常もの」みたいなジャンルがよくやってるデザインと比べると異色ですし、また京都アニメーションの近年と比べてもこれが作家性と商業性が合致していた瞬間だったのかなあと思いました。

 

やっぱり今見ると、まず使っている色調が他の日常アニメと逆なことが特殊

 まず、よくある日常ネタ4コマネタのアニメ化と未だに一線を画すのは、その色調にあります。さてひっさびさにカラーチャートを出しますね。

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パステルで、ベースカラーをあんまり設定せずに多数の色を使うことで

子供っぽさや萌えやらをぶち込むスタイル

 最近の「三者三葉」や「ご注文はうさぎですか?」、または「のんのんびより」といった作品は日常系と萌えのジャンルらしく、p、lt、b、sfあたりの彩度と明度が高めに設定された色調を採用しており、キャラクターごとに髪の色が極端に違うなんてことも当たり前なくらい、使う色の数も多いです。

 

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 ところが「けいおん」は明度と彩度を抑えたltgやd当たりでまとめており、加えて紙の色や制服の色、背景も含めて基調となる色調をまとめ、画面内で使う色の数も抑えてます。よくある髪の描き方を取ってみても、極端にハイライトを設定したり、グラデーションのように明暗をつけたりすることはほどほどに抑え、ぎりぎり単色塗りに近い形になっています。

 

 つまりは他の日常系がかわいらしさやポップさ、癒しみたいなのを表現する色調なのに対し、真逆のシックでタイトなデザインであることが今もって「けいおん」が同ジャンルで特殊なとこだと思います。だってそれは、もうすこしシリアスなテーマの時に使う色調ですから。

 

 「けいおん!」のちょっと後に「ソラノヲト」や「ココロコネクト」とデザインが似通ってた作品が現れましたが、あれらは軍隊や人間関係がテーマにあるためにシックでタイトな色調を使うことに納得がいきます。しかし日常ぐだぐだ萌えネタでこんな色調を基本にしているというのは、やっぱそれほど例が無いと思います。

 

 そんなシックな色調が主にかかわらず、日常萌えネタや高校性バンドものらしいポップさを保っているのも随所に差し色*1のように彩度の高い色を随所に入れてることが大きいと思います。

 

 例えば画面転換などであのデジタル処理にて異様に彩度の高い色調と多数の色遣いによる、洒落た演出をとっていたり、または学校の外を舞台にした際に私服などで使う色の数を増やしたりしています。そうすることで基本はシックなのに、ポップという印象が残るようになっています。

 

あとたぶん、脚本ではなく映像とデザインで内容を語らせたい感じ

 

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 はっきりいって第一話のあらすじ自体は本当にありがちだし、しょうもないんですよ。ところが全体の演出によって全然別の印象に変わります。

 

 「遅刻するからパンを加えながら登校」みたいなヤバすぎるシーンをジャンプカットの連続で繋いでいくことから、りっちゃんみおちゃんが軽音部をやろうとしているのと並行してゆいちゃんがなにしようかとぐだぐだしてるというのを、ロケハン先の豊郷小学校に実在している「うさぎと亀」のカットを含めることで両者の関係をなんか意味ありげに示唆している演出によって、しょうもないはずの脚本のはずなのに意味が違ってくるんですよ。

 

 ここでも暗喩を含めるような演出も含め、実はシックで固い中で時々らくがきみたいにふわふわしたかんじのアニメートが入ってくることでポップにしてる部分があると思います。

けいおん以降の京アニのデザインは…

 

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 「けいおん!」は振り返ると、実は全編に渡ってハードで固いデザインの中に差し色のようにポップな瞬間を入れて強弱をつけていた作品だとわかります。すごい本編がまったりしたムードなのに、OPとEDで爆発的に躍動する強弱が全ての部分であるんじゃないですかね。

 

 しかし以降の京都アニメーションの作品遍歴を見ていくと、そのハードさとポップさはスタジオの作家性と深夜アニメーションを観る客層に合わせた商業性のところで分裂していていくかのようです。

 

 シックな色調でまとめた路線は「氷菓」でシリアスなテーマのもので掘り下げられるようになります。一方で「たまこまーけっと」では彩度を高め、色数を増やし意図的にベースカラーのないように振る舞った、往年のファミリーアニメか現行の萌えアニメに合わせた形になっていますが、やっぱそれでもタイトなバランスを保っています。

 

 しかしそこから後になると露骨に客層に合わせたデザインになっていき、京アニ独自のシックでタイトなデザインというのは深夜アニメのフィールドでは見られにくくなっていきます。「中二病でも~」や「Free!」を経て、「ファントムワールド」の現在、すごく考えたデザインをやりながら凡庸なありがちなものを作る、というふうになっていっています。

 

 代わりに劇場版での展開で「たまこラブストーリー」みたいにタイトなデザインをすることは移ってしまってるように思います。なんせ山田監督の新作もあの「聲の形」ですし。特報を見るだけでも手描きのように途切れた線、パステルの色彩と水の表現などなどガチでやってます。

 

 

 けいおんから7年。なかなか理想としているデザインと商業的なヒットが結びつくことは難しく、思った以上に商業アニメーションのデザインは足踏みしてる気はしますね。マジで難しいアプローチをしているなと毎度思いつつ観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。

 

 

 

 

   

 

*1:基本となる色調に対して真逆の色調をワンポイントで使い、アクセントをつけ、画面にメリハリをつける色