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葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

一体何をここまで確信して作ったのだろうか?「甲鉄城のカバネリ」

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甲鉄城のカバネリ 視聴フル 制作 WIT STUDIO

 

 またひとつ現れました。瞬間的に熱しすぐさまに忘れ去られ、次なる瞬間に繋げるための礎です。「甲鉄城のカバネリ」は凄まじいですね。正直前期の「僕だけがいない街」と2タテで高クオリティの作品になっていると思われます。ノイタミナはどうしたんでしょうか?ちょっと前は半端におしゃれバカなアニメばっか取り扱ってたのに、劇場版アニメを20分ずつ分割して放映してるかのようなクオリティの作品をがつがつ出してどうしたのでしょうか?

 

 「ファフナー」とか多くの作品が80年代や90年代のしっぽを引きずったままのコンセプトや作風であることを散々書き散らしてきましたし、本当にそれらを無味乾燥なものとして眺めてきていました。

 

 しかしそういうありきたりな80年代90年代の作風であったとしても、例えばトリガーの「グレンラガン」「キルラキル」みたいに違う見せ方や、一歩離れた位置からデザインしなおす・総括させるデザインも現れてきたわけで、そうした作品は「一歩上のレイヤーからデザインしてる」みたいなフレーズで評価してきたと思います。

 

 とはいえ、「グレンラガン」とか「キルラキル」のアプローチは変な書き方になりますが、クールなアプローチでもありますよね。過去のエッセンスを総括して再構成するってことは、結局その80年代当時のデザインそのものは今の時代では通用しないものであることはわかってるってことですから。トリガーは熱血な作風が多いように見えていますが、デザイン的にはクールな立ち位置を崩していません。

 

 さて甲鉄城のカバネリなんですが、この作品が異様なのはそうした過去のデザインを上のレイヤーで一歩引いてデザインしているというタイプとは少々違っていることです。まず、美樹本晴彦のキャラデザインであり、ハイライトと陰影の差がバキバキに割れたアナログ時代のセルアニメ塗りでデザインされているという、ド直球で80年代アニメのエッセンスを現代にリバイバルさせていることです。すでに古いキャラデザインなのでは?と思われた美樹本デザインは、確信を持った演出の中で逆に強烈なまでの熱量を帯びていきます。

 

 そう、異様なのはクールを気取ったデザインにするのが普通のところなのに、ここまで確信をもって80年代のエッセンスをリバイバルさせた胆力です。みんな「一歩レイヤーを上げて」とか理由付けて逃げていってる中で、ここまでストレートを投げ込んでいることは本当まれですよ。今の時代に美樹本デザインでこうまで全力になることがおかしいですよ。

 

往年の美樹本デザイン。強烈な作画とアナログのセル塗りがぎらつく。

 

 いったいなぜここまで確信を持って作り上げたのでしょうか?を一個ずつ振り返っていくと、その理由もわかるかもしれません。凄まじいアニメート、そしてレイアウトの数々や、おそらくベタなくらいの海外ファンを狙ったゾンビ&ポストアポカリプスの亜種の世界観に、スチームパンクと戦国時代の侍が混ざり合ったモチーフなどなど、まるで海外のマニアが沸き立つような要素に満ち満ちているからです。それは川尻義昭作品に近いとも言えるかもしれません。狙っているのでしょうか。

 

 制作したWIT STUDIOが今もっともヤバいと思うのは、「ローリングガールズ」のような一歩引いたレイヤーの作品、というか2歩も3歩も引きすぎてむしろわけが分からなくなる作品を作れる能力があるのが分かったうえで、進撃の巨人はともかくとしても、カバネリのように完全に過去のデザインを皮肉ったり、べつのコンテクストにずらすことなく、剛速球で投げ込むデザインの作品をぶち込んでいることです。

 

 そのあたりでクールな京アニ・シャフト・トリガーなどなどと大きく差別化出来ています。デジタル製作以降、80年代90年代のセルアニメ塗りみたいなのは一度時間をかけて消えていったし、デジタルならではの可能性の追求が近年の前線にあるスタジオのクールなデザインに現れていると思うんですが、WIT STUDIOのシリアスな80年代90年代リバイバルによってまたセルアニメ塗りや太い描線が蠢くというデザインの流れは少々は生まれる…なんてことがあるかというと、予想はつきません。

 

 どうあれ春の全ての作品を無視していても、カバネリ一本を見ておけば今シーズンはまず問題ないとすら言っていいのではないでしょうか。観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。

 

甲鉄城のカバネリ ORIGINAL SOUNDTRACK

甲鉄城のカバネリ ORIGINAL SOUNDTRACK