イエロー・サブマリン 視聴フル
ポップとアート・アヴァンギャルドの関係。両者は完全にはなればなれであるかに思える。ところがアーティストによっては相克するかに見える両者が共存しているケースは意外にも少なくはない。数少ないそれらは瞬間的に熱し、すぐさまに忘れられ次の瞬間に繋げるために礎になるポップさと、最初から表現の永遠や真実を目指したそれが繋がりあっていることを見せる。
いまさら観た「イエロー・サブマリン」というアニメーションは、驚愕の連続だった。当然ビートルズというキャラクターの派生作品とはいえ、これがポピュラーな作品という枠内にあることも改めて驚くし、それからやっぱビートルズ自体もアイドルでポップかつアーティストでアヴァンギャルドなグループだった、なんて当たり前のことをあらためて思い知らされる。
The Beatles Yellow Submarine - YouTube
大別してしまえば人気アーティストの楽曲による1968年発表ということでビートルズとしても完全にアーティスティックな方向に走っていた時期のものだ。ポップなアイドルでありながらトータルアルバムを制作したりインドへ渡りメディテーション修行を行うなど芸術的な方面から思想的な方面に至るまで拡大していく。
ビートルズが単なるポップなグループであるだけだはなく、またアーティステックなだけなグループという評価に落ち着くことも無いだろう。そうした立ち位置は「イエローサブマリン」にも強く反映されている。
表向きはシンプルなビートルズのMTVではある。本作に書かれた楽曲の他に「エリナ・リグビー」などの楽曲に合わせたシークエンスの連なりであり、楽曲ごとに違うアニメートなどシンプルに映像と音楽が絡みあう面白さがある。そこには写真やイラストレーションのコラージュ、ロトスコープなど数多くの技法が詰め込まれた他、60年代の伝説的なイラストレーター・デザイナーであるミルトン・グレイザーのような描き方やカラーリング、そしてサイケデリック時代のヴィジョンを提示したひとりであるピーター・マックスの影響などなど、かの時代のアートスタイルを垣間見ることができる。
しかしこのアニメに漂う感覚はそんなポップなグループに対してアヴァンギャルドな意匠を凝らしたアニメーションというだけではない。そのコンセプトやシナリオの中にシニカルさが混ざりこんでいることが、この作品並びにやはりビートルズの解釈に深みを加えるものになっている。
架空の国ペパー・ランドにてサージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンドがライブを行っているところ、音楽を憎むブルー・ミーニーズが突如としてペパーランドを侵略。国からは愛と音楽が彼らによって奪われてしまう。王国の危機に対してイエローサブマリン号からビートルズに助けを求めるのだが…
一見すればビートルズが異世界に言って悪を駆逐しに行くなんて陳腐きわまりないんだけど、ところが悪とされるブルー・ミーニーズがモデルとなっているものを聞くと大きく話が違ってくる。なんとそれはミッキーマウス。ディズニーに対してを皮肉る形のキャラクターデザインとなっているという。
ディズニーへの皮肉、ブルー・ミーニー。数を為して愛や音楽を奪うというのは…
間違いなく愛と音楽のアニメーションを作り上げていた商業アニメーションのパイオニアであるディズニーに対し、アヴァンギャルドな意匠アニメーションでしかもポップグループたるビートルズを当ててくるという構図がおかしい。
どうしてもその意図を妙な方向で観てしまうわけで、ばりっばりの帝国主義ぽいアメリカのディズニーの拡大ぶりに対してまあヨーロッパの人たちと言うのが皮肉るみたいな話に近い。だけどそれがビートルズだよ?
アメリカでもっともポップなアニメによる愛と音楽を奪う侵略に対してイギリスでもっともポップなグループがそれに立ち向かうみたいなのって、実際ビートルズがアメリカのチャートにガンガン食い込んでいたとか、アニメ的には類型的なディズニーのアニメートに対して徹底してアヴァンギャルドにふるまっているとか絡まって可笑しい。こんなシニカルなのってないよ。
一見すれば一切として日本の商業アニメには絡まないアニメートをもっているかもしれない。でもぼくには湯浅政明の「マインドゲーム」の持っていたアヴァンギャルドさ、そしてボアダムズのヤマタカEYEの劇伴と絡むことで生まれる映像の高揚感であるとか、また「まどか☆マギカ」みたいなメインのアニメートに接続される全く別のアニメートやコラージュによる映像世界のカオスさを思い出しもする。
非商業的のアート・アニメーションではなく商業アニメーションの範囲内で可能なアヴァンギャルドさって意味で、おそらくは極地かもしれない。ポップでアヴァンギャルド、そしてシニカルな余韻。それらも込みでビートルズ解釈も変わる(または、強化される)作品である。
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