最近ビデオゲーム業界で、マイクロソフトがXboxブランドでボディケア製品を発表しました。リンク先に「eスポーツの猛者達が互いの体臭を感じる近さにひしめき合う大会に臨むに当たっては、まずシャワーを浴びたりボディケアに配慮しようというメッセージが込められているのかもしれません。」とあるように、大手プラットフォーマーがユーザーに対し、匂いについて公に言及したことに触れています。
いくつかのメディアは「Xboxブランドの匂いをまとったまま、PS4のゲームをできるのか?」と失笑しましたが、どうあれユーザー全体に、これまであまり見ないようにしていた体臭問題を突きつけています。
インドアな趣味であったビデオゲームや商業アニメも、ユーザーが表に出てくることが増えました。ストリーマーが顔を出してゲームを実況して何億も稼ぎ出したり、esportsの選手として有名になったり、世間に顔を出すということが当たり前になりました。アニメファンだって著名人はもう珍しくなく、ライフスタイル雑誌で特集されることも少なくなくなりました。
つまりオタク趣味が市民権を得た一方で、ユーザーも公に出る時代でもあることを意味しており、もはや世間を無視していいわけではないようです。そこで広告アニメが優しく、体臭問題に関して触れていると思います。今回はそんな広告アニメを2本紹介しましょう。
花王 ビオレさらさらパウダーシート 「がんばれ!隠れ汗 プロジェクト」
とびきりかわいらしい絵柄の青春アニメなんですが、要所でさらさらパウダーシートを使うシーンにウッとくる感じがあります。
『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のアクション作画監督を務めた菅野芳弘氏が務めています。革新的ではないものの、UHFアニメの女の子の描き方よりも控えめな、同世代の女の子を対象にしているであろうデザインも広告アニメならではですね。あんまりUHFアニメで、こういう日常女の子アニメのデザインないんですよ。
それだけにフェティッシュも性欲にも繋がらない、純粋にTPOにそぐわない「匂い」「汗」を想像させるつらさは突出しています。彼女たちの世界には体臭が他人に不快感を与えるという概念があって、気にしているということですから。
さらさらパウダーシートが存在する世界ということはさらさらパウダーシートを使わない人間が存在することを意味でしており、アニメ世界のどこかに自分の体臭を気にせず、他人や世間への不快感を考慮しない登場人物が存在しているわけですよ。
余談ですけど広告アニメにちゃんとクレジットを入れているのは「いち作品として見せたいんだなあ」という本気さがあります。それぐらい本気で匂いや汗について伝えたいということでもあるんですね。
ギャツビー広告アニメ「ワッキーセブン」
脇の匂いを擬人化したこちらも相当ですよ。 ギャツビーのCMとして企画されたこちらは、7種類の匂いを擬人化。ありとあらゆるものを萌えや擬人化して、現実の持つ臭みを脱臭していくのが得意なジャンルとはいえ、これも見ていてえづく感じがありますね。
さらさらパウダーシート広告アニメがあくまで女性に向けて作っているためまだわかるのですが、男性向けのデオドラント商品だとガチな感じあるんですよね。というか、擬人化が男性アイドル的なデザインのほうでやってるので、まだジョークで済んでいるということなのでしょうか?
業界側が体臭問題に言及することで最後に侵略されるテリトリー
体臭問題に関わる業界側の試みはどれも苦笑させられる一方、アニメやゲーム趣味のインドアで、世間から遠ざかる姿勢の、最後のテリトリーさえも侵略されてるなとも思います。趣味に没頭してる人からしたら大きなお世話とも言えるじゃないですか。
ひどいオチになりますが「世間に受け入れられるオタク趣味なぞしゃらくさい!なぜ世間様なんぞに気を使ってオタクが身なりや体臭やら気にせにゃならん!匂いどうこうの広告アニメはクソだろ!市民権を得たなんて欺瞞にヘドが出る!大体ファッション誌やライフスタイル雑誌がアニメを取り上げるのはいま確実にペイできる固定客と見られているからだろ!むしろオタクこそそういう扱いに断固抵抗していけよ!」という方はいないかなとふと思いましたよ。
すいません。亡くなられた村崎百郎さんの本を最近読んで、こんなことを思ってしまいました。いま読むと「鬼畜」、「ゴミ漁り」をアングルに世間の欺瞞を告発していくスタイルのプロレスのようだと感じていいんですね。インドアで、暗い感情が渦巻く自分のテリトリーと、世間との境界線を引く活動を続けていたように思えます。
オタク趣味が世間的に台頭していることで、ではユーザーもそんな世間のTPOに合わせろよって感じも、うすうすと感じなくもないんですよね。アニメ・ゲーム(あとアイドルなどなど)のファンが集まるイベントで、運営側が匂い問題を言うようになるのが常態になったら、本当の意味で市民権を得た時代と思います。
しかし意地でも世間に迎合せず、アニメファンを公言する著名人も広告アニメもすべて憎み、体臭を無視して、孤独に自分の趣味を追求するオタクはいるのでしょうか。いや、なんとなく当のオタクもその手の人はちょっと……と感じているような気もします。観たアニメは忘れましょう。そして培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。