ユーリ!!! on Ice 監督・山本沙代 制作・MAPPA
フィギュアスケートを題材に『エヴァ』の平松禎史が作画監督を務めるなど演技のタイトな作画が期待される『ユーリ!!! on Ice』です。しかし一話を見ながら痛感させられるのは「どうしてここまで執拗に凡人ベースの描写やデザインを重ねるのだろう(あとで天才であることが発覚していくシナリオだとしても)」ということです。
やっぱりこれは現実のほうがきらめくフィクションみたいな結果を出し続ける羽生結弦がいるから、わざと落としたキャラを置かないと成立しないということでしょうか?少なくとも、モデルにしただろう羽生結弦やプルシェンコらのいる現実があらためて圧倒的であるというのは再確認できます。はっきりいって1話けっこうつらいんですよ。
正直な話トータルデザインはフィギュアスケートのアニメートをもっとも生かすような配分ではなく、京アニやシャフト、トリガー、WIT studio的な映像に特化するスタイルではなく、ドラマの可読性を重視したオーソドックスなスタイルです。それゆえにドラマがよく見えるだけに、観ててつらい。
原作者は久保ミツロウさんで長らくマガジンを主戦場にしている作家さんなんですが、思い返すとマガジンでありがちなドラマツルギーで「無力なめがね青年がおっかなびっくりながらヤンキーの世界や恋愛の世界に足を踏み込む」というやつがありますね。前者は「特攻の拓」で後者は「ラブひな」です。
しかしおっかなびっくりなガキが高校デビューという話ならいいんですけど、これもう主人公の年齢も大卒間近で、しかも題材はフィギュアスケートですからね。マガジン的ドラマツルギーで気弱なめがね青年は憧れのヤンキーの先輩だったり幼馴染の女の子にみとめられるためにいろいろやるんです。しかし『ユーリ on Ice』ではおそらくプルシェンコをモデルとしたロシアのトップ選手に憧れ、認められようとするんですがどうにもそれがいやなかんじなんですよ。
羽生結弦という現実との落差がここにきて効いてくるといいますか、 凡庸な主人公がロシアの天才にかしづくという、俗にいうBL的な”受け”の構図です。しかもそれに「作者が羽生やプルシェンコの才能に跪いている」というレベルまで含まれているのがつらい。フィギュアスケートではもう圧倒的な天才の美しい演技には跪くしかないのはわかるんですが、その天才が主人公ならいいんですけど、こうした無力目の主人公をコントラストとしてそのさまが見えるかんじするんですよね…
なのでドラマを見やすくするためのデザインに加えてマガジン的なドラマ作りがフィギュアスケートという題材を美しく描くというよりも、作り手がフィギュアスケートの美しさに跪いてしまっているさまが露骨に出てるのがつらいです。
ここまでぼろくそなんですが、では監督山本沙代がだめなのかというとそうではなく、むしろ本作の前身となっただろう作品は全く逆で羽生結弦ら日本のトップ選手の美しさを引き出したアニメーションでした。そう、日本アニメーター見本市でアップされた短編『endless night』です。
こちらも山本監督と漫画家が組んだケースなのですが、『ユーリ!!!』とは真逆にフィギュアスケートの美しさそのものを切り取ることに成功しています。「多重人格探偵サイコ」の漫画家田島昭宇や「デスノート」の小畑健などのスタイルをもっとも早く作り上げた漫画家・『To-y』『Sex』の上條淳士をキャラデザインに起用し、氏のライブ写真を切り取ったような漫画表現のスタイルをリスペクトしたものになっています。
久保ミツロウは原案やネームも担当しているため、比べるのは違うかもしれませんが上條淳士のキャラクターデザインやスタイルはまったくフィギュアスケートに対しても跪くといったものはありません。むしろあのスタイルを生かすかのようにフィギュアスケートをネタに使っているかのようです。個人的にはそっちのほうが好みといってしまうとあれなんですが。観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。
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