17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

本当は怖い「少年アシベ」そして「ぼのぼの」

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 またひとつ現れました。瞬間的に熱しすぐさまに忘れ去られ、次なる瞬間に繋げるための礎です。

 

 90年代のアシベやぼのぼのがまたアニメ化されるってのは、ここのところ往年のヒット作を再アニメ化した方がすでにタイトルが知れ渡っているからとはよく言われるんですけども、こう何度も何度もアニメ化することで原作そのものにあった毒素はなくなっていくことに嫌な予感がありますね。

 

 ましてや野心的な監督が再解釈をするというのも、一見子供向けタイトルであるアシベやぼのぼのでやるとは思いづらいです。ゴマちゃんやシマリスくんのかわいらしさの方を拡張するような描き方のほうを推し進めがちで、原作にあったブラックな部分や思索的な部分というのはなかなか出てこなくなりそうな気がします。

 

 一見子供が喜ぶようなファミリー向けの要素に満ちていながら、実は原作者の作風の中では異色だったり、ターニングポイントみたいな作風だったりします。「少年アシベ」の作者の森下裕美はこの作品をヤングジャンプで連載する以前は、漫画界の表現主義作家主義、文学性を極めたような雑誌ガロで作品を発表していましたし、「ぼのぼの」のいがらしみきおにしても「ネ暗トピア」などなどハードなギャグ漫画と全然ほのぼのしていないんですよ。

 

 この意外に暗い情熱と言うのはあの「ちびまる子ちゃん」でも感じられることです。有名な話ですが丸尾君や花輪君というのも、元ネタはガロで著名なエログロ作家・丸尾末広と、拳銃を所持していたことで逮捕され、刑務所での体験を漫画で描いた花輪和一がモデルだと言われています。意外にさくらももこの趣味も相当にハードなところにありますし、「永沢君」あたりにそのあたりがバリバリに出てると思うんですよ。

 

永沢君 (イッキコミックス)

永沢君 (イッキコミックス)

 

 

 

 「アシベ」そして「ぼのぼの」のふたりは今も、もともとの作家性を掘り下げた「大阪ハムレット」や「トモちゃんはすごいブス」や、「Ⅰ【アイ】」や「羊の木」といった作品を作り続けています。でも「アシベ」や「ぼのぼの」をもう一度アニメ化するほうは、どんどん原作者の作風から離れ、表面のかわいい部分だけなぞっていっている気がします。

 

 

 というわけで運命がズレて、今すげえ(ネットで)注目されている大川ぶくぶさんがなぜか軟化した作風になり、ファミリー向けの安全な漫画を出してそれがアニメ化してヒットしてしまうという未来もありうるのかもしれません。いや、ないか。

 

 「ぼくだけが知っていたはずのマイナーでブラックな作家」がメジャーに転向し、なぜか万人向けで国民的な作品というムードをまとったヒットになるという奇妙な下克上は日本ではむかしけっこうあった気がします。100%の面白さ(面白いけど、敷居の高さがあり読んで疲れる)をやってた作家が70%の面白さ(気軽に読めて敷居が低い)のメジャーに転向するというのがパワフルな作品が出てくるときの流れとぼんやり思ってます。

 

 いまはどうでしょうか。なんか70%の面白さを追求する人ばかり過当にもてはやしてるのをよく見かけますよ。まあ偏見ですけど…観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。

 

 

トモちゃんはすごいブス(1) (アクションコミックス)

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I【アイ】 第1集 (IKKI COMIX)

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ポプテピピック (バンブーコミックス WINセレクション)

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