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葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

制作本数の増加でアニメの質は本当に下がってるのか?2016年冬アニメ ランキング

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 ちょっとしたデータを目にしました。深夜アニメの制作本数というのは5年前と比べるとなんと3倍もの数になっているらしいです。

 

  「制作本数の増加で業界の作業量が増加して質は下がってるんじゃねえの?」と近年はしばしば言われています。適当に今シーズンの反応を流し見していても、不作との意見も少なくなく見られました。

 ただこれは、ワンクールで終了する作品の増加や一話5分や2分の作品も含んでいるため、実質的な総生産量はそれほど増えているとは言えないのでは、とか言われてもいますし、これは統計の誤謬ではないか、とも言われています。

 さて実際のところ、質は下がっているのでしょうか?今シーズンのベストを上げつつ書き散らします。

 

 

 

5・無彩色のファントムワールド

 

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 どなただったか、「世間は本当に面白いと思う10割だと実は通らなくて、7割に抑える。その7割を全力でやること」というような意見を残していて、ここ数年の京アニ(の深夜アニメ)観るとマジでそれを思い出します。

 

 上の仮説に乗っ取って、客層に合わせると言うことは総じて本来面白いということから常に3割落とし続けることかもしれません。「わかりやすくする」ってことですから。しかし、それは適当に言ってもどんどん面白いということが下限に行ってしまうわけですから、こんな含蓄の無い原作をエロをフックにしてるのはそんな現状っぽい気がしなくもないです。

 

 基本、くそなんですが、わずかに漏れるグリッチやブロックノイズから「これは結局虚構である。デジタルである」みたいな押井守的にも、オライリー的にもシフトできそうな10割でやろうとしてるとこを見つける感じになっています。

 

 

4・Dimension W

 

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 実写映画みたいな背景や仕上げに、キャラクターデザインに情報量を込めまくりなリッチな2D作画と、その手法を追従するセルルック3DCGのアニメによって、「もっとも完成度の高い映像の形」が決まりかけつつあるかに見えてキツいとこはあります。そんな中で一見オーソドックスながら、随所で手描きならではのきびきびした作画の良さを見せつけます。

 

 ぶっちゃけアクションで崩しているのではなく、シンプルな日常芝居の中割りで作画が崩れちゃってる瞬間も意外にでています。でももう、それも込みでありですよ。今は完全にデッサンの崩れの無い映像、手描きのウソを消していく映像こそ完成度が高いみたいな流れであり、手描きならではのウソと日本商業アニメならではの3コマ打ち基調のアクションの良さが見ものです。なかなかセルルック3DCGでここまでは回収できないと思うんですよ。

 

3・ブブキ・ブランキ

 

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 クラウドファンディング資金を調達した「Under the dog」の中心スタッフが含まれた作品。セルルック3DCGを2Dの手描きに溶け込ませる技術を商業レベルにて実現し続けるサンジゲン。

 

 さっきのディメンジョンと真逆ですが、個人的にここまで2D手描きのアニメートのタイミングやレイアウトのクオリティを堅持したまま商業で成立させてることで、今の映像の完成系と言うのがセルルック3DCGでも代替可能になっていくのかもしれないな、と思わせます。

 

2・ラクエンロジック

 

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 脚本を丸無視すると、アイカツプリキュアあたりの明るくポップなフォームをダークネスで危ない印象が残すデザインにしたあたりが印象深いです。2D手描きとセルルック3DCGのミックスも優れており、不気味な印象を残します。手描きでキャラを描くポップさと裏腹に、シームレスに違和感なく繋がる戦闘シークエンスでの3DCGが嫌に冷たい手触りなのもあるかもしれません。

 

 現行のリッチな2Dデジタル作画とセルルック3DCGの両者がもたらすうすら寒さみたいなところを、意図してかどうかはともかく意外にも突いてると見ます。

 

 ただ、それが脚本やコンセプトに反映されてなくて、なんといいますか幾原邦彦抜きの「ウテナ」「ピングドラム」を観るような気分に近いような…いやけっこう往年の幾原邦彦感を今の技術で作ってる感はあるんですが…ここはこのスラングで締めたほうがいいんでしょうね。実質ウテナだ!幾原本人も作れなくなった実質ウテナだよ!

 

1・プリンス・オブ・ストライドオルタナティブ

 

 

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 普通にエクストリームスポーツのデザイン&乙女ゲー初のスタイリッシュのミックス、パルクール&駅伝という題材の作画も込みで今シーズンベストなんではないでしょうか?

 なんかここまでに「幾原抜きのウテナのようだ」とか作家性がぬけた作品炭酸の抜けたコーラキムタク抜きのSMAP移籍失敗のようなこと書いてますが、ここは注目してるいしづか監督の作家性に関して触れておきます。

 

 ここまでなかなか原作の持つ魅力だとか、そもそも原作者さえも気づいていなかった可能性にまで拡張するアニメ化ならではのデザインって思ったよりもない中、「ノーゲーム・ノーライフ」あたりから3タテでそれを実現でしているのは凄いのでは。テキストやコンセプチュアルなところの作家性というか、映像の方でデザイン出来るって意味の作家性ですね。

 

 今シーズンのタイトル別書き散らしはこちら

 

結局どうだったんでしょうか?

 

 正直言って、映像的・作画的な質は実のところかなり高い。 むしろ、かなり豊作な印象すらあります。ここに僕だけがいない街を加えたら相当に絵的な見ごたえあるでしょう。2D作画とセルルック3DCG、また両方のミックスの作品がこうまで揃ってるというのも面白いシーズンでは。

 

 にもかかわらずつまらない・味気ない印象があるというのは、企画力・脚本のところで興味が続かないせいかもしれません。もし質が落ちたという印象があるとすれば、それは企画力の劣化が一つあるのではないでしょうか。


 

 

 ちらっと注目作ランクみたいな記事を見たら一番注目されてるのが「だがしかし」。きっ、企画物だ!今振り返るとトータルデザインはよろしくないですし、そもそもグレートーン基調の映像って、食べ物ネタなのにあんま美味しそうに見えなくなるじゃねえか!日曜朝アニメみたいな彩度は高めでいいし、ベースは暖色にして、へんに髪色に白くフェードアウトするグラデーションなんてかけずに単色基調で仕上げ、もう少しメインのお菓子が美味しそうに見える色使いでいいだろ!

 

 

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 ん?今考えると色彩けっこう多用してるくせに妙にグレートーン…無暗にフリル多用でおっぱい強調の服飾…無駄にフェラチオ想起させるメシがまずくなる淫猥な食事描写…この要素って…なんだ結局エロゲー系統のデザイン寄りかよ!おっさんか!おっさんが菓子にかこつけて淫靡な方向に!このメタファー!

 

 …などといっても、すぐに内容が把握できるのは強いのです…単純に企画力の高さを推しはかるのは、タイトルをみれば大体わかるとも言えます。先述のベストに上げた作品、映像は褒めたもののタイトルだけ見てすぐに内容が把握できるでしょうか?全部クソラノベアニメに見えてもおかしくないかもしれないくらいです。「なにか威勢がよくタイトルも長いがまったく内容が見えてこない」が共通しております。


 人気漫画原作の「だがしかし」「僕だけがいない街」「亜人」「昭和元禄落語心中」はタイトルがコピーとして強く、すぐ内容が察知できますよね。対してラクエンロジックだのブブキ・ブランキだの映像もデザインの奥にある目的も凄くても、タイトルで内容をすぐに理解できるでしょうか?そもそもなんのジャンルのアニメかすらわかりません。

 

 漫画原作は当初から企画部分や脚本部分の良さも込みでヒットしてきたゆえにアニメ化にまでたどり着いてますけど、なかなか題材を飛躍させるようなデザインの出来るスタジオがつきにくい感じ。逆にスタジオのオリジナル作品は映像技術面も、デザインの思想もかなり突出しているが、客が内容を把握できず「どう観たらいいんだ…」ってついていきにくそうにしてる感じです。

 


 そんなんですがぼくが見た限りの今シーズンのベストは乙女ゲー版「ガールズ&パンツァー」になれるかもわからないくらい、シンプルに良いです。萌えに見せかけて謎の競技描写がメインであり、パルクールのアクションの作画も鋭く、チームワークでキャラを立てつつ競技の戦略部分を楽しませる展開と、かなり傑作の要素が近いと思います。

 

…がタイトルは「プリンス・オブ・ストライドオルタナティブ」。長えよ!覚えられるか!エクストリームスポーツものなんてすぐにわかるかよ!「ガールズ&パンツァー」は凄いタイトルですよ…細胞から理解できるだろ…

 

 冒頭の(統計のソース元はともかくの)ざっくりデータに戻りますと、制作本数が今の3分の1だった5,6年前の「けいおん」や「まどマギ」以降、制作本数の増加と対照的に年度を代表する作品が思いつきにくくなっている気がします。観たアニメを忘れていく速度は増してます。でも培った技術は加速度的に上昇しています。だがそれを客に伝える企画力がおそらく落ちています。では来季にお会いしましょう。