17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

スタジオジブリの正しい後継者と言えるアニメート、だが…「台風のノルダ」&「陽なたのアオシグレ」

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 また一つ現れました。すぐさまに熱し忘れられ次の瞬間に繋げるための礎です。 

 

 宮崎駿引退によりいよいよ制作部門の活動を休止したジブリ。その後継者に関してやれ細田守だ、いや新海誠がいいんじゃないかとか、いやいや片淵須直が真にそのラインだとか、やはり関係を取り沙汰される庵野秀明だだとか、直系の米林宏昌だなんてのはあんま聞かないのですが、そのデザイン・テーマ・総じて作家性、または人間関係さえも含めた広いレベルで言い散らかされております。

 

 ぼくはその中でもアニメートという一点に限って、「これが正しき東映動画スタジオジブリラインで進歩していった日本式フルアニメーションの最新型ではないか」と思わされたのは、先述した彼らの作品ではなくまったくの新人気鋭のスタジオのものです。

 そう、短編アニメーション「フミコの告白」の新鋭・石田祐康とスタジオジブリで経験を積ん新井陽次郎らを擁するスタジオコロリドです。個人的には日本の商業アニメーションの中で注目しているスタジオです。

 

 すでにいくつかの短編で結果を出していますが、その新作として中編「台風のノルダ」が最近公開されたので行ってきました。さて、その結果とは…

 

 

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陽なたのアオシグレ 監督・石田祐康

 

 2013年公開の本作が併映されておりましたが、すさまじい短編です。

 

 手描きのコンテのラフさ(または温かみだとか形容されるそれ)を残したような描線、徹底したパステルの画面構成が印象的です。アニメでは避けがちなカメラ奥移動などなど立体的な描写の際は3Dで構成された背景を動かすという、いまどこでもやってる演出を使ってるんですがその時の美術が通常の背景のものとの差がほぼないのも素晴らしい。デジタル使って手描きの生の線使う後期の高畑勲作品と、宮崎駿的な特性があわせもったようなといえば、言い過ぎですね。

 

 やっぱ感激したのはメガネ少年が少女への妄想が飛躍していくクライマックスのアニメートです。スピッツの楽曲に合わせて少年の想いが爆発し飛翔していくシークエンスは「フミコの告白」に直結するとんでもない躍動を持ったアニメートとして迫ります。先に上げたようなデザイから飛翔のアニメートを作り上げた点を持ってスタジオジブリの正しい後継者の候補のトップなのではとさえ思いました。短編と長編を比べるのはだめですが、デザインとアニメート面では少なくとも「思い出のマーニー」をぶっちぎりで突き放すくらい差があります。

 

 宮崎駿つったらロリコンと兵器への偏愛二つが有名ですが、ここでは兵器への偏愛部分の代わりがおしゃれなデザインのセンスや構成の能力に入れ替わっております。宮崎駿、以下その後のジブリ作品の監督で完全にこのあたりのデザインの能力は全く持っていないだけに、「陽なたのアオシグレ」は飽きるくらい観たジブリっぽさがあるのにどこか真新しい感覚があるという、まさに正しい後継者のイメージとなっています。

 

 ここでスタジオコロリドにかなり期待をもったのでしたが…

 

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台風のノルダ 監督・新井陽次郎

 

 

  相米慎二の「台風クラブ」をいやでも思い出してしまう、文化祭前日に起きた台風の夜に出会う少年少女の物語です。「陽なたのアオシグレ」ではキャラクターデザイン・作画監督を担当していた、スタジオジブリでの制作経験を持つ新井陽次郎が監督しています。

 

 まるで宮崎駿庵野秀明の師弟関係ってのがそのままキャラクターデザインになっているかのようで不思議な感じです。宮崎駿貞本義行の中間を狙ったような。「魔女の宅急便」と「エヴァンゲリオン」のあいだにあるみたいで、主役二人はまるでジブリ世界に来たシンジくんやカヲルくんのようです。問題は、偏執狂的な爆発エフェクト&兵器への偏愛、巨神兵抜きなんですが…ラーメンからチャーシューだとかニンニク全抜きみたいな話でしょうか。

 

 しかし短編で優れた仕事を為していても中-長編になってしまうとアニメートだけで評価しきれないし、また決めのアニメートに最終のスルーパスを放つために構成しなければならんものがあります。そうです脚本です。

 

 短編の時点であれだけ強力なアニメートを誇った作家が長編化したさい、脚本構成に引っ張られるかのようにアニメートの能力発揮しきれてない感じあります。新海誠も第二作目そうでした(奇しくもこれも男の子2人と女の子ひとりの3P構成っすね)。主人公たちの関係も行動原理も、女の子がどこから来たのかもいまいち不明なままで、いや不明は不明でもいいんですがアニメートでぶっ飛ばすとこが、どうも台風がきて看板が校舎のガラスを突き破る瞬間くらいしかないのがつらいとこでした…

 

 もしかしたらある程度のシナリオやテーマを要求される長編の段取りになると、ジブリ出身者はよりジブリルールに引っ張られてしまうのでしょうか?作品の本質におそらく関係ないだろうになぜか丁寧に描かれる、ノルダのバナナの食事シーンにはちょっと「思い出のマーニー」の米林監督のような宮崎駿高畑勲の呪いを感じましたよ。

 

 まっさかフェラチオの暗喩みたいなわかりやすいとこでは…かっ関係あるのかなんか知らんがそういや主人公の男の子ふたりも野球関係で諍いを起こしていて球をやけにぶつけたりするシーンがあるがそれも…しかしセクシャルを美しくデザインするのは本当に死闘のように難しいですよ。とくに少年少女ならなおさら。

 

 新井&石原タッグチームがもたらすビリビリとするアニメートは今後長編やるとして脚本術とどう折り合いつけんのかな~新海誠などもけっこう時間かかってたよなとか思いつつ、観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。

 

 

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