17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

世界最大のアートアニメの殿堂「NFB」!なんと公式で無料公開してる名作10選

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 世界にてアニメーション表現の歴史や技術を研究している人間も大学も数多く存在する。だが国家に支援された公式の機関として、アニメーションに関わる最大の場所がある。それがカナダのNFB(The National Film Board of Canada)だ。カナダ政府より助成されているここはアニメーションだけではなく、実写など様々な映像作品を文化としての位置を確立させている一つだ。

 

 NFBはアニメーション史上でもっと重要な作家が幾人も関わった機関であり、その作品群を観るのは日本では高価なDVDなどになるなど敷居が高く、難しい所では?と思いきや、なんと現在では公式サイトyoutubeに公式チャンネルが開設されており、膨大な名作が無料で公開されているのだ。意外に低い敷居から、数々の伝説的な作家の作品を観ることが出来るのだ、というわけで今回はNFBで公開されている名作よりおすすめなのを10選チョイス。

 

 

1 「boogie-Doodie」ノーマン・マクラレン

 

 実験映像作家であり、そして音楽と映像という時間を切り結ぶ抽象アニメーションを作り続けた巨匠の一人、ノーマン・マクラレン。NFBの歴史上でもアニメーション部門の最高責任者となっていたなど、重要なポジションにいた。

 

  音楽と映像を切り結ぶような実験作は数多いのだが、本作はジャズミュージシャンとセッションするかのように映像が作られている。ある意味でジャズの持っている性質に映像で応えようとしているかのようである。

 

 

 

2 「The Sand Castle」 コ・ホードマン

 

 

 ストップ・モーションアニメーションの大家であるコ・ホードマンは、モチーフそのものが持っている面白さを掬い上げてアニメートしてみせる。たとえば積み木、たとえば紙といったものを。このアニメーションは砂や泥というモチーフの面白さそのものを引き出している。

 

 

3 「When the Day Breaks」ウェンディ・ティルビー&アマンダ・フォービス

 

 

 こちらは以前にも紹介したことのあるウェンディ&アマンダのタッグチームの作品。実写フィルムの上からグラスペインティングという形で制作されたと言うことらしく、みょうなリアリズムとシニカルな象徴というかユーモアが渾然とした作風。

 

 

 

 

4 「Madame Tutli-Putli」Chris Lavis & Maciek Szczerbowski

 

 とてつもなく精微なディテールによる、クオリティの凄みを感じられるストップ・モーションアニメーション。宮澤りえ系の顔立ちをした美人の主人公の目線に萌えるというか圧倒されるかという感じあるが、実はなんと目は実写の合成で出来ているらしい

 

 とある列車に乗り込み、どこかへ向かう主人公にもしかしたら淫靡な目線を向ける男がいたり、列車内で奇怪な気配を感じたりする様を描く。そのきめ細やかな作りゆえに、なんというかどこかセクシャルな印象が浮かぶ。

  

5「Black Soul」 Martine Chartrand

 

 

 アレクサンドル・ペトロフなどが主に行っているグラスペインティングを利用することによってまるで油彩画がそのまま動いているかのような衝撃を与える手法によって構築された作品だが、描かれるのはアフリカからアメリカに至るまでの黒人の歴史である。 

 

 

6 「JEU」 ジョルジュ・シュヴィッツゲベル

 

 

 なんというか、アニメーションの持ってる音楽と映像であるとか、その双方が持ってる精微な時間芸術としてのつながりであるとか、あらゆる面白味を極限まで集約したアニメーションのようだ。マクラレン以来の抽象アニメートに加え、アレクサンドル・ペトロフ(まあ手法は違うけど)などが行う絵画の具象的な手触りをそのままアニメートして見せる。そして時間も空間も変転した後のクライマックスの展開は圧巻である。ジョルジュ・ジュヴィッツゲベルはそんな化け物のようなアニメートを行う。

7 「snow cat」 Sheldon Cohen

 

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 本編はこちらから

  おばあちゃんが孫に話す不思議な雪の猫の昔ばなし。冒頭では現実ということでアクリル的なデザインのアニメーションが展開される。そこにおばあちゃんの昔ばなしが始まった瞬間、(どういった手法のかは調べきれてないけど)不思議な絵肌によるアニメートがスタートする。

 

 でも暗闇に差すオーロラのような印象のこのアニメートは、まるでおばあちゃんの話を聞きながら頭の中でその風景を想像したときの映像のようだ。現実部分とのアニメートの差によって、雪の猫の不思議な思い出が映える。

8 「The Day Off」 Sidney Goldsmith

 

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 本編はこちらから

 

  どこかの海岸で休暇を楽しむ人たちの、どこにでもあるような海岸での時間。優美な劇伴と合わせて影のように差し挟まれるのは、実写による戦争や紛争の風景。

 

 それはなにかディストピアの中の楽園みたいな奇怪な美しさだ。実写映画になるが「ゾンビ」の中盤以降、街が破滅した中でショッピングモールで自由に遊ぶ主人公たちであるとか、たけしの「ソナチネ」みたいに完全に後がなくなり追いつめられているはずのヤクザが沖縄の海岸で紙相撲の真似事をしたりする風景みたいな、完全に世界も生命も終わりに追い詰められているにも関わらずの休暇のような美しさに近い。もっと言うなら、小説家・村上龍の第2作目「海の向こうで戦争が始まる」をアニメにしたとしたらこんな感じかもしれない。

 

 

海の向こうで戦争が始まる

海の向こうで戦争が始まる

 

 

9 「ビーズ・ゲーム」イシュ・パテル

 

 

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 本編はこちらから

 

 インド生まれのアニメーション作家・イシュ・パテル。20年以上もNFBにてアニメーションを作ったと言う重要な作家の一人だ。

 

 代表作「ビーズ・ゲーム」はタイトル通りビーズで作られている。開幕当初こそ素材の面白味やクレイアニメに見られるようなメタモルフォーゼでぐにゃぐにゃと変化していく様を描いていくタイプであるかに見えるのだが、やがて原始的な生命から現代文明にまで続く捕食や闘争を描いていく。

 

 そして圧巻なのは文明の未来まで進んだ果てに宇宙や太極へと到達していく、まるで「2001年宇宙の旅」を思わせるクライマックスへと突入することである。

10 「ストリート・ミュージック」ライアン・ラーキン

 NFBはアニメーションというものをおそらく最もアカデミックな取り扱いをしている世界最大の機関であるが、しかしその中で異彩を放つ作家がいる。

 

 わずか25歳で制作した「ウォーキング」がアカデミー賞にノミネートされるなど驚異的な評価を得る。ところが、突如としてホームレスへと転じる。その後、数多くの批評や作家が再評価していく中で、60代を超えてNFBに復帰したという経歴を持つというアニメーション史上でもまるでロックスターのような強烈な経歴を歩み、その人格面にも注目されたアニメーション作家、ライアン・ラーキン。その代表作。この作家に関しては詳しくはまたあとで個別エントリを上げる予定。

 

 このようにNFBは公式サイトにアーカイヴを公開しているほかにiPhoneのアプリなどでもアクセスすることが出来る

 

 現在ではさらにスマートフォンやPCによるアクセスを利用した、ブラウザ上でユーザーがちょっとしたゲームみたいな感じで操作を行うことで成立するインタラクティブという項目もあり、「way to go」など野心的な試みもある。NFBはこんな風にアニメーションをはじめ様々な映像の可能性や研究を行い、ウェブを介してアクセスができるようになっている。

 

 

Who's Who in Animated Cartoons: An International Guide to Film And Television's Award-Winning And Legendary Animators

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