17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

キャラデザに文句出ながらも蓋を開ければアニメートの面白さが溢れる「寄生獣 セイの格率」

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寄生獣 セイの格率  制作マッドハウス 視聴フル

 

また一つ現れました。瞬間的に熱しそして忘れ去られるために積み上げられ次の瞬間に繋げる礎です。

 

岩明均の代表作のアニメ化。原作の連載終了から10年以上のタイムラグがある場合、その間に社会環境からデザインの方針、アニメではアナログからデジタル変貌と様々なレベルの環境の変貌があるため、「何故いま作るのか?テーマの普遍性など?」「どのようにデザインするのか?」というタイムラグを埋める作業があります。

 

  例えば「ピンポン」は10数年という「何故今?」「どう作るか?」のタイムラグは、松本大洋の表現上単純な原作再現も困難という事情があったが、アナログからデジタル主流でラフな生きた線すらもデザインできることや、それが出来る湯浅政明のセンスなんかが合いまり埋め切ることが出来たと見ます。

 

  寄生獣はオンタイムで原作再現的なアニメ化のチャンスは恐らく幾度もあったでしょうが、現在までに伸びました。「何故今?」というのはどうも実写映画のプロジェクトの関係もあるのでしょうか。アメリカの映画会社が2005年に実写映画化の原作権を取得、しかし制作はされないままに2013年に契約が切れ、そこで改めて日本の東宝が原作権を取得しプロジェクトが始動しました。

 

  映画は2部作と、ここに来てちょっとした寄生獣フェアを作ろうとしてる流れなのかアニメ化。ここで問題になるのは「ではどう作るか?」です。

 

   10年以上のタイムラグで特にトレンドや技術環境は変貌してる。原作のシンイチくんなんてシャツインのファッションだったりで単なる原作再現で埋めきれない部分が多数。これをどう埋めるつもりなのか?…の結果がエヴァカレカノなどに参加してた平松禎史キャラデザによる大幅な変更なのでしょうか。

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 タイムラグの埋め方がこのようなかたちとなり岩明均の漫画のデザインと大幅に違ったことで結構な文句が巻き起こりましたが、実際の映像はというとこれがかなりオーソドックスなアニメートの面白さであふれています。

 

 いささかモノクロームな画面、まるでスマホやなんかが当たり前にある時代なのになぜか昭和を錯覚するような感じ。原作連載開始はすでに平成だったんですが、何か画風や表現のムード的に昭和の諸星大二郎や「怪奇大作戦」的なムードのしっぽを踏んでいるレトロさを今に翻訳した形でしょうか?ヒロインのヘアスタイルの妙な感じとか。

 

 仮想のレトロさで描かれるアニメートの面白さは2つ、人物の演技の細かさと寄生獣たちのメタモルフォーゼです。シンイチはじめ登場人物たちの些細な表情や手ぶりの細やかな日常芝居のアニメートは、映像のリアリティを細やか形作ります。けっこうこの辺の日常芝居ってコストカットされがちなとことみてますが、そこんところが豊かです。

 

 些細ですが寄生されたシンイチが暴れるのを見に来た両親のカットで、オトンが止めるか止めまいかのところでオカンがついオトンの背中をふれまいかとかるく手が上がる、とかの実感とかいいなと思ってましたよ。

 

 そうした細やかな日常芝居の積み上げで出来たリアリティ。それを一気に突き崩すのが、寄生獣たちの肉体を変貌させるアニメートの自由さです。シンイチら主要人物の堅牢なアニメートがあるうえで、それを突き崩すように、割れる顔、路地裏の犬そして右腕などなどの変ぼうしていく肉体のアニメートが生き生きとします。

 

 「ある形のものが別の形になる」は2Dアニメやクレイアニメなどで魅力あるアニメートです。何が何に変わるか?という結果ではなく、変貌そのものの過程を面白がる抽象的なそれともいえます。

 

 特に本作はささやかな日常生活のアニメートの具体性を高めるところから、寄生獣のメタモルフォシスの抽象性をぶち込むという「日常」を細やかに描く具象のアニメートに「異形」を示す抽象のアニメートが侵略していくという二つの顔を持っていると思います。

 今の技術でレトロ風味の絵作りで演技やフォルムのアニメートって仮想のレトロって構図は「電脳コイル」あたりと基本設計が近いんだと思います。でも「寄生獣」はリアル芝居や動作を細やかに描くアニメートの上に、そうしたリアリティを一挙にすっ飛ばす寄生獣のぐねぐね変貌するアニメートという強弱が非常に深く魅力あるものになっております。

 

 原作のテキストの拡張というアニメって意味ではこの誤差はまだまだ大きそうですが、映像を見る限り、作ってる側はなにかタイムラグを埋める核心はありそうに思えます。日常を侵略する謎の寄生獣は、そのままアニメートの具象を侵略する実態不明の抽象という戦いにつながります。

 

 

 どうでもいいですが老舗マッドハウスはざっと眺めるに、すごく市場やその都合におもねった保守的なスタンスながらも、わりと原作再現以上の原作のムードから喚起される何かを取り出すことはかなりうまくやってる気がしなくもないです。「ハナヤマタ」みたいなけいおんラインみたいな狙いながら、割と祭囃子と土地みたいなムードも演出や映像で混ぜてたように映りますし(1話しか見てないですが)、「ノーゲーム・ノーライフ」あたりもネトゲ廃人の歪な全能感やら(2話くらいしか見てないですが)「魔法科高校の劣等生」のじわじわおかしな感じも(なんかツイッターで半笑いの評判でつい5話ぶんくらいまで見てしまいましたが)わかってやっている気がします。観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。

 

 

寄生獣 完全版全8巻 完結コミックセット

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