17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

葛西祝によるアニメーションについてのテキスト

富野監督にはアニメの才能が無い だから勝つ「Gのレコンギスタ」

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Gのレコンギスタ 2話フル 制作:サンライズ

  っつうことで2014年秋のモードスタートです。一発目は話題作である本作から。

 アニメの才能

 いきなりひどいタイトルですが一応才能の範囲を明示しておきましょう。アニメーションは脚本思想云々ではなく、思想もすべてをアニメートと映像中に反映させていくことが本質。アニメでキャラクターやテキストの評価は所詮は2流の着地点に過ぎません。

 

 もともとがストーリーとキャラクターを主にするためのリミテッドの虫プロ出身の演出家という、ただでさえアニメートの本質に遠い所の上、さらに自前で絵を描くことが出来ない代わりに演出技術のベースは実写映画という倒錯タイプの走りなので、そういうアニメートの才能をまったく育まれていません。

 かわりに別の部分が奇妙に、歪に発達しています。そう性急なテキスト、にじみ出る監督の偏執。庵野秀明が「富野監督の作品は監督が裸踊りしているのがいい」といったそれで、おそらく膨大で性急なコンテ切りの中ではぐまれただろうそれです。

 

 「ピンポン」でいうなら宮崎駿がスマイルみたいなもんなら富野はアクマみたいなもんです。本質への才能がない分、圧倒的な作業量でカバー。そして過激な言動の割にインタビューの内容は保守的で凡庸。ところが、2014年の現在ロボットアニメが乱発している中、「Gのレコンギスタ」の保守的な方向性はすげえ出来が良く見えます。

 

ロボットネタがなにもかもひどい中で、結局「Gレコ」が優れてるところとは?

 

 

バディコンプレックスに見るロボットアニメというジャンルの衰退・弁魔士セシルの悪意・2014年冬モードレビュー最終 - 17.5歳のセックスか戦争を知ったガキのモード

 

 ロボットネタは以前のエントリでも書いてましたが、もう作品の最終的な着地点は出し尽くしてしまった中で下方修正の再生産が為されてるだけみたいに見えます。架空戦記の説得力もなく、ロボットネタ自体が主人公たちにとって内面や日常情景のメタファーばっかみたいな。「アルドノア・ゼロ」だとか「キャプテンアース」だとか、まるっきりそこに世界の広がりも感じないし主要人物以外には人間味もなく、悪役は三白眼で高笑いです。そこに世界観の広がりはありません。地球と火星の距離もチャリで行けるくらいの範囲しか感じないです。

 

 最近のアルドノアとかのデザインなら主人公の注力して、それ以外になっていくとまるきり存在感も息遣いも感じなくなる閉じた世界観のようにしか見えなくなることが多いのに対し、「Gのレコンギスタ」は非常に通りがいい。架空戦記としてすべての登場人物が同じ視点で同じ価値として描かれます。「Gのレコンギスタ」の主人公のベルリとアイーダも広く同じ場所で息づく多くの人間たちと同じくらいの存在であり、わずかな瞬間にしか登場しなくとも、同じ軍隊のモブもチアガールもひとりひとりデザインされ、人格を感じさせ息づいているのがよいです。

 

ジブリ吉田健一をはじめとしたアニメートとデザインの才覚をもったスタッフたちの絵作り

 

 こうしたムードはジブリ吉田健一氏などのアニメートの才覚を培ってきたスタッフたちの役割が凄いデカいと思います。 登場人物たちだって髪の色やシルエットでキャラ分け、色数も多いしGーセルフをはじめMSのデザインもまるで もはやダサいはずのものです。ところが全体としてまとまった際、世界観の広がりや息づきが並外れたものになっています。

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 そこにはかなり水面下で取られているバランスがいいと踏んでます。人物とMSも色数が多いとはいえ、上のカラーチャートで言えばlt 、b sfあたりの明度でパステルと原色のバランスを取り、個々の色を悪目立ちさせすぎないようにしています。

 

 さらに美術がけっこうよくて、それは主要人物全体の色数が多いから彩度高めで配色を随所にはさみ人物をバランスをとっています。「キャラの髪は原色なのに背景は現実の写真トレースだから人物と背景が分離してるかに見える」というけっこうありがちなそれを感じにくいです。ジャンル違うけど「たまこまーけっと」と近い絵作りだと思います。

 

 そしてこれ最重要だと勝手に思っているのですが、MSが手描き原画であるということです。いまや当然のようにロボは3DCGで構築します。ですが「Gレコ」では、モビル”スーツ”と入ってるように登場人物たちの身体の拡張としての感覚を堅持してると見ます。ヒーローネタでも変身後は殆ど生身に近いはずなのにCGにしちゃうのが少なくない中、これはやけに意味深いです宇宙エレベーターのみが3DCGフォルムをむき出しにしてるバランスです。

 

 いまどきのデジタルアニメ的なグラデーションをつけて画面をまとめるのではなく、配色そのままの画面で、原画の線もやや生々しいままにすることで、非常にアナログアニメ的な手触りとなっています。吉田健一らによる手腕はそれは極めて保守的なのですが、世界の広がりを感じさせる絵作りになったと見ます。

 

「Gのレコンギスタ」は決して新しくはありません。しかし富野監督の強固な基盤と吉田健一らの絵作りは巨大な世界観の広がりや息づきを実現させ、2014年中のどのロボットネタにもコールド勝ちしてしまうくらい強度があります。観たアニメは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、次回にお会いしましょう。