人を呼び込み金を取るのならば、まず必要なのは芸術だとかではなく普通の生活の中では観ることも触れることも出来ない新奇であり、爽快なアクションや凄絶な暴力であり、淫靡なエロスで引きつけることだ。その要素を強調するエクスプロイテーション(搾取)とも言われるそれは、すでに芸術であるとかメディアであるとされた映像が、歴史をさかのぼれば見世物であり興行という出自であることを観客に突きつけ続ける。
日本のアニメ作家の中で、物語だの思想だのを掲げることなく客を暴力やアクション、エロスで引きつけエクスプロイトさせる要素を作品の中で生生しく表現している作家は誰か?を考えると、それは川尻善昭ではないだろうか。80年代OVAの「妖獣都市」から「獣兵衛忍風帳」「バンパイアハンターD」、現在のところの最新作「ハイランダー」に至るまでフィルムの全体アクションとエロスの楔が打ち込まれている。
菊地秀行の「妖獣都市」や「魔界都市」といった、小説におけるエクスプロイテーションを実現している原作に、川尻善昭は演出や脚本に仕立てる中で自らの思想性などを含みはしない。全てを濃厚なキャラデザイン・映像によって立ち上げていく。
川尻作品は制作費が抑えられた中で作画枚数が限られる中の演出という、日本アニメの歴史の中で独自進化したリミテッドアニメ技術の中でも鮮烈さとビジュアルを特化させている。カット割りやエフェクトを生かし、鮮烈なアクション、そしてエロスを描く。
エクスプロイテーションとしてこれ以上ない要素を詰め、80年代に花開いたアニメの独自市場・OVAにてファンをエクスプロイトしていく。ぼくが初めて川尻義昭作品を観たのはOVA「電脳都市OEDO808」。レンタルビデオ屋の片隅で5本300円で投げ売りされていたものだった。ある意味これ以上最適な出会いは無いだろう。ヤバすぎるセンスのタイトルから察せられるとおり80年代サイバーパンクSFに見られた未来社会に江戸や忍者の要素が奇怪に混ざり合う世界でありダサいなんてもんじゃない。あの時代の奇怪さをリバイバルしてる「ニンジャスレイヤー」があるが、当時の生々しいの感覚そのものというべきかもわからない。
電脳都市OEDOは、なぜかダブステップアーティストNEROのPVに引用されてる
川尻作品はオカルトやサイバーパンク世界、奇怪な江戸テクスチャーをお洒落に洗練なんてさせず生々しく貼り付ける。そして忍者といった新奇かつ珍奇なモチーフの上に、おそらくは限られた製作費とそれに伴う作画枚数の中で鮮烈なアクションやゴア描写、セックスやエロスを刻み込んでいく。
だがしかしエクスプロイテーションの刺激には終わらない。日本のリミテッドアニメならではの少ない作画枚数で動きの量を抑え、多数のカットやエフェクトを生かして作ることは、逆に動かない絵の中でしか実現しにくい、鮮烈に目立つ長身痩躯のデザインを華やかに見せることに成功するのだ。
そうして生み出されるのは奇怪なオカルトやニンジャのアクションやセックスをぶち込みながら、同時になにか格調の高い気配や静謐さと余韻を残していくという相克だ。それは同時代のエクスプロイテーションの精神にあふれていた70ー80年代のイタリアのダリオ・アルジェントやルシオ・フルチのホラーや、ジョン・ウー「男たちの引き歌」をはじめ香港ノワールなどが持っていた相克にも似ている。
だがしかし、時が進むにつれアニメジャンルでのエクスプロイテーションは有効ではなくなっていく。求める暴力もエロスもその基調にはセックスか戦争を知った中高生のガキたちにあり、搾取するべきラインは子供っぽくてポルノがより主になってゆく。
やがて川尻善昭の描くエクスプロイテーションは、なんと日本ではなく北米をはじめとした海外で有効になっていく。「獣兵衛忍風帳」は北米で50万本を超える売り上げを出し、奇怪に埋め込まれた江戸や忍者やオカルトの胡散臭さ、鮮烈で生々しい手触りでありながら、同時にどこか静謐で格調の高いオーラは海外との協力によって実現していくのだ。
エクスプロイトの先は北米はじめ海外に
川尻善昭作品に出資があるのは海外からだ。「バンパイアハンターD」は2000年に北米でまず公開される。その後に日本で公開されるという経緯を辿る。菊地秀行の代表作を映像化してきた中でも、または天野義孝のイメージのセルアニメーション化という意味でも、特筆して川尻善昭の良質な部分が凝縮された作品であると思う。
「バンパイアハンターD」はもはやアナログでのセルアニメ制作が末期の中で、豊富な美術や動画の量が補完される。培われてきた川尻善昭の演出技術で耽美なキャラクター、ゴアやグロテスク、エロスが、アナログ特有の明度と彩度のギラついたセル動画の中で激しく蠢く。2000年以降、デジタル化にアニメのアナログ時代が終結していく時代に、80年代から培われていた、日本のメインストリームとは別のセルアニメが超技術で躍動する最後の呻きのようなものとさえ映る。
2007年には80年代の特異な映画「ハイランダー 悪魔の戦士」シリーズのアニメ版を担当。2000年を時を生きながら仇敵と決闘し続けるというそれをやはり持ち得てきた鮮烈なアクションとエロスをぶち撒けるのだ。ここからはデジタル製作となっているため、アナログセルアニメ特有の動画が蠢く禍々しさや悦楽は削げてしまっているとはいえ、その精神は途切れない。
2012年には「獣兵衛忍風帳」の続編の製作が発表。すでに上の予告動画より2年が経過しているが、去年から今年にかけて短編の「BRUST」、そして長編での「胡蝶」が製作されているという。「作品の米国でのパートナー候補はいるにも関わらず、日本国内での製作委員会出資者(パートナー)は、現在定まっていない」というあたりも川尻作品の評価の誤差が現れている。
諸海外で評価される日本のアニメーション監督にはそれはもうジブリの宮崎駿から高畑勲、押井守から大友克洋、今敏などなどが席を占めているし、彼らは皆、当然のように映像も動画の快楽も保持したうえでこれまでの世界のアニメの歴史のなかでは実現し得なかった広い視座や表現、テーマの設定などなどで評価されていった。
しかし川尻善昭作品には思想も、技術進化の披露も無い。ただ純粋に耽美にして奇異なデザインの登場人物の織りなす新奇とゴアそして耽美さを抱えたエクスプロイテーションという点が突出することで、世界に繋がっている。
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