アレクサンドル・ペトロフのアニメーション、それは近代絵画のモチーフや手法、そして鑑賞した時の感覚がそのままアニメーションに昇華されているかのようです。
美術史の中でも特に日本でもなじみが深い(また美術や芸術の世間の解釈で自らの表現をとかいう誤読をされがちな)絵画の歴史ではマネからルノワール、モネをはじめ、狂気のゴッホから絵画の構造を書き換えたセザンヌに至るまでの百花繚乱を刻印した印象派の時代でしょう。端的に書くならば、屋外製作により、現場そのものに筆致を生かして描くことなどが主でした。
時代が下るにつれ数多くの作家が登場するとともに絵画というものの構成や根本さえも問い直すかのようなクリエイティビティが…と説明はまずはここまでにしておいて、ルノワールやモネのような明確な写実を中心としていたところから現場での印象や筆致を生かすという方向にシフトした、もっとも理解や感情移入のたやすい初期の印象派的な感動、それがアレクサンドル・ペトロフのアニメーションの基調にあります。
ペイント・オン・グラスの制作風景
ペトロフの初期印象派絵画のような映像はいかにして作られているのでしょうか?主にそれはペイント・オン・グラスという手法によって作られています。文字通りにガラスの上に画具を乗せて絵を描き、1フレームが完成したら撮影していき、次のフレームの絵を描いていくのです。
上の製作動画を見てもその作業量が多くなるのは想像に難くなく、結果、ヘミングウェイの「老人の海」を情感と暗示を込めてアニメーションにしていくことなどに成功していきました。初期印象派絵画を見つめる眼差しのままに、アニメでその感動を立ち上げていく眼差しの強さを観ることが出来るのです。